CINEMA STUDIO28

2013-06-10

The grandmaster

 
映画の日に、日劇で。王家衛の新作「グランド・マスター」を観る。京都のちっさいスクリーンの映画館で王家衛を観てた頃を思うと、新作を東京のこんな大きなスクリーンで観られるなんて時間は過ぎたんだなぁ・・。
 
 
李龍の師匠としても知られる伝説の武術家・葉問と、流派の違う何人かの武術家の物語。1930年代からしばらくの広東省〜東北〜香港が舞台。しばらくは相変わらずの映像の美しさ、衣装や美術(特に娼館の場面!)に酔うのだが、前々からあってないようなもんだった脚本(いつもそもそも脚本が存在しないんだったっけ)が、一人の男の半生を描くには弱すぎ、物語にもっと絡むのかと思ってた張震すらもったいない使われ方で、動きすぎるカメラは武術の動きの全体を見せてはくれず、そこはかとなく漂うB級映画っぽさ、まったくもって消化不良な気分に。いつぶりの新作だっけ・・え・・?もしや「花様年華」?など考えつつ画面をやり過ごしていたのだけど、完全に「マイブルーベリーナイツ」の存在を闇に葬っていたことに気がついた。あれもちゃんと映画館で観たのに。王家衛、私の中では90年代で進化が止まってる・・。何を撮っても男女の物語になってしまう王家衛は、こんな大作1本に費やす時間とお金で、「欲望の翼」みたいな小さな、男女の映画数本撮ってほしい・・。
 
 
とはいえ、王家衛、俳優のうちの誰か、30年代の中国という舞台、武術といったキーワードのどれかにひっかかるものがあれば、大画面で観る価値はあるかもしれない。アジアの女優で、なんといってもチャン・ツィイーが大好き!な私としては、彼女を観ているだけで幸せ。容姿も、北京語の話し方も、鼻っ柱の強い女が似合うところもも好きなのだけど、一番の魅力はびしっと鍛えられた体幹。もともとダンスの名手であったからして(何だっけ?人民解放軍の制服着て踊ってる映像観たことあるのだけど・・)、立ち姿の美しさよ。ただ立ってるだけで魅力的に映らねばならぬ俳優にとって、これほどの強みがあるだろうか。そんなチャン・ツィイーが過酷な訓練を積み披露してくれる舞のような武術。長い長い列車の場面を堪能したからこそ、その後の焦点の定まらない表情で弱々しい台詞を吐く場面も生きる。
 
 
主役のはずのトニー・レオンですらチャン・ツィイーを引き立てるためのスパイス程度にしか思えない。この映画はバージョンがいくつかあり、中国版はほぼチャン・ツィイーが主役、という編集になっていると何かで読んだので、機会があればそちらを観てみたい。