東京国際映画祭で観た映画メモ。インドネシア映画、中篇2本だて「ディアナを見つめて」は、「舟の上、だれかの妻、だれかの夫」と併映、2本で合計100分ほどだった。見慣れない国の映画を観る時、長篇1本よりこれぐらいの中篇2本って観やすくていいなぁ。それぞれ監督と俳優のQ&Aがあって、上映→Q&A→上映→Q&Aという流れだったので、なんだか授業みたい。
「ディアナを見つめて」、あらすじはこちら
あらすじを読んだ段階から、これは観たことのない種類の映画だな、と思い、実際、観たことのない種類の映画だった。いろんな国の映画を観て思う。嗚呼この世界にはいろんな家族関係、夫婦関係があるものだなぁ、人間が2人以上集まるとただでさえ一筋縄でいかない事案が生じてくる上に、その国固有の文化や思想も上乗せされて。
「ディアナを見つめて」は第2夫人を娶りたいと告げられる主婦(第1夫人)を追う物語。子育て中の専業主婦で、家の中、家の周りしか映らないので、なおさら彼女が煮詰まっていくように見える。中東の富豪が夫人を何人も従えて…というのは、ファンタジーのような現実として知ってはいたけども、この映画は富豪でも何でもなく、ごく一般的な家庭の若い夫婦の間にそれが起こる。
また、夫が妻に別にもう一つ家庭を持とうと思うと告げる場面が…ノートPCを開き、話があるんだけどと妻に画面の前に座らせ、それではこちらをご覧くださいとばかりにパワーポイントのスライドが次々とめくられ、2つの家庭を持つにあたり夫がこれからどう時間やお金を配分させていくか、例えばお金は夫の稼ぎをそれぞれの家庭に40%ずつ、残る20%は緊急用に留保。ビジネスプレゼンですか?という緻密な冷静さでスライドが流れていくのを、呆然と見つめる妻を観客は見守るしかない。
さすがに第2夫人を娶るという慣習?は古風な、もしくは一部の選ばれた人々のものだということなのか、夫がその父親にお前は何様だとなじられる場面もあるけど、夫は考えを変えず、一切の妻の感情を無視し、さっさと自分で決め、もう一つの家庭に通う生活を黙々と始めてしまう。妻から詰め寄られた夫は、君は文句ばっかり、あいつ(第2夫人)はあれ買ってこれ買ってと金ばかり使わせる、俺は一体どうしたらいいんだ!と逆上する始末。器に見合わないことされると周りが迷惑、というのはどの国でも同じだなぁ…と、全面的に妻に同情しながら観た。最後は少し晴れやかで、さっさと別れて子供と生きていくという選択肢もあるのかな?それは社会的に許されないのだろうか…と考えているうちに、短い映画は終わった。
登壇したのは監督と主演女優。監督はクレバーな語り口の若き女性監督だった。人口の大半がイスラム教徒であるインドネシアでは、一夫多妻の家庭は存在するが、人々はそれを積極的に話題にしない。話題にしないけど、存在する、という温度感とのこと。このあたりは「舟の上、だれかの妻、だれかの夫」でも不倫にまつわる伝承を、人々は知らんぷりするけど、現実に不倫がないわけではなく、ただ語らないという温度感と似ているように思った。
そしてインドネシアの一夫多妻制について、法律上では許されないが、宗教上のルールでは許される、第4夫人まで許されるというダブルスタンダードが存在する複雑さがあるらしく、どちらにせよ傷つくのは女性のほうだということを描く映画、という説明は女性監督ならではだな、と思い、夫の理不尽さと、その理不尽さもそれを許容する思想の上に成り立っているのだ、と映画を通じて考えてた私は、監督の狙い通りの観客ということかもしれない。
VIDEO
今、初めて観た。このトレイラー、シンプルでいいな。