伊香保へ温泉に浸かりに。朝晩3回浸かって心身ふやふやである。初めての伊香保、未だに群馬、栃木の位置関係があやふやな自分のために記録しておくと、伊香保は群馬県である。群馬の他の特徴として、富岡製糸場、蒟蒻、水沢うどん、温泉は他に草津などが挙げられる。ぐんまちゃんという馬のゆるキャラが水のペットボトルにイラストが描かれていたり土産物屋にぬいぐるみが並んでいたり幅を利かせていた。しかし伊香保のゆるキャラは「いしだんくん」といい、胴体部分が石段のフォルムをしている。こうやって記憶が脇道にそれ、そのうちきっと伊香保=群馬、というそもそも記憶したかったことを忘れるのが私の常である。
宿の窓から見えた景色。山山山!
2016年お正月、気持ち悪いほど気温高く連日の晴天だったと記録しておく
噂の石段がこちら。365段あり、最上部に伊香保神社がある
高齢化するこれからの日本に不似合いなハードさ
伊香保で一番の娯楽は射的
誇張ではなく本当に3メートル置きに射的の店がある
射的の他に、わなげ、手裏剣、大弓なども
射的屋を見たのは初めてだったはずなので、ただの温泉街のファンタジー
だと思っていたら現実に存在したので驚いた
石段の途中、大量の黄色い鳥類が供えられる風景に軽く狂気を感じ
現代美術か何かかと思えば、どうやら射的の残念賞がひよこのようで
日に日に増殖していた…
石段の周りを大きな温泉旅館が取り囲み、どれも等しく建物は老朽していた。与謝野晶子の歌碑があったり、夢二と縁があったり、かつての文化人たちが逗留した形跡があちこちに感じられ、湯は各種の病に効能があり、そして石段も情緒がある。そして娯楽は射的。忙しき現代人にはこれぐらいなにもない場所に敢えて行かなければ心身のコリもほぐれないというもの…と思うほど、なにもない場所だった。そしてこれだけの古い温泉街だもの、何か映画の舞台になったりしているのでは…と調べてみたら、まさかの名作キタ!成瀬巳喜男「浮雲」に伊香保が登場するらしい。忘れてたけど…あらすじを改めて読んでみると、腐れ縁の2人(高峰秀子・森雅之)が療養にやってくるのが伊香保。宿代に困った2人は加東大介に気に入られ店の一部屋を間借りする。加東大介の年若き妻が岡田茉莉子で、やがて森雅之は岡田茉莉子に手を出し、高峰秀子がそれに気づき… そうそう、記憶の遥か彼方にあったけど、そんな話だった気がする(適当)!そうか…あれは伊香保だったのか…
セット?かもしれないけど石段も表現されており、
湯に浸かる2人
湯に浸かっていても湿っぽい表情の森雅之…
金太夫という旅館がその舞台らしい。原作者の林芙美子も、名前を隠して取材でここに泊まったのだとか。 泊まった宿の近くにあったので写真を撮った。かつては老舗高級旅館だったのが経営破綻し現在はホテルチェーンが経営してるのだとか。「浮雲」的に切ない話…。
成瀬の「浮雲」、湿っぽいメロドラマという私の苦手な要素揃いで、名作とは知りながらも、それほど好きな映画ではない。最後、林芙美子の「花の命は短くて苦しきことのみ多かりき」という一文が映されて終わったと思うのだけど、は?それを2時間かけて表現したんじゃないの?最後に文章かぶせてどうすんの?無粋だわ…と、ケッと白けてしまって後味も悪い。しかし苦手な要素揃いなのに最後まで集中して観てしまうのは、監督と俳優の力としか言いようがない。
そして映画の舞台に行ってみて思ったのだけど、映画の当時、伊香保は現在ほどには鄙びてなかっただろうし、むしろ温泉観光の王様の貫禄すらあったのかもしれないけど、地形的にも娯楽の少なさはさほど変わらなかったのではないかしら。温泉入って食べて寝る、長期逗留するなら延々その繰り返しで、画家や作家には適した環境かもしれないけど…腐れ縁の、関係も微妙な男女が2人でこんな山間の温泉地にただ篭ると…痴情がもつれてもしょうがない。というか、痴情がもつれるぐらいしか他にすることがないのではないか。痴情のもつれすら暇つぶし、退屈しのぎになりそうな、子供の娯楽は射的、大人の娯楽は痴情のもつれ!そんな展開がいかにも似合う場所のように感じられた。伊香保を去った後の展開の哀しさを思うと、もっとカラッとしたとこ行けばよかったね…太陽が降り注いでトロピカルな果物が美味しい南の島とか…(森雅之に似合わなさすぎる)…など、ありえない浮雲・別の結末バージョンを妄想して、暇つぶしをした私であった。射的、するべきだったかしら。