CINEMA STUDIO28

2016-01-09

花嫁・新妻・新婚日記

 
 
2015年ベストの前に、年が明けて1月、これまで観た映画の記録。若尾文子映画祭アンコール上映、これは観る!と決めていた番組。
 
 
「花嫁のため息」「新妻の寝ごと」 で一番組
「新婚日記 恥しい夢」「新婚日記 嬉しい朝」 で一番組
 
 
それぞれ40分ほどの中篇、2本連続でかかって、映画としては独立してるけど、それぞれ前編・後編。公開時も2本抱き合わせで公開されたのかなぁ。どちらも1956年の映画。「青空娘」が1957年だと思えば、若尾さんのほっぺぷくぷくの初々しさ、想像できるかと。そんな初々しさで新婚ものだなんて…!
 
 
「花嫁のため息」
東京の庶民的な界隈の路地。大家さん夫婦、下宿人の若者のところにお嫁さんが来るから張り切って結婚資金も預かり魚屋から鯛を買ったり。近所の奥様がたも集まり結婚式の料理の準備をしている。やがて雨が降り、料理が濡れ、花嫁姿の若尾さんが登場し、着物は濡れ、大わらわで婚礼は終わる。いよいよ初夜…なのだけど、酔った新郎の友達が押しかけてきたり(船越英二の図々しいこと!)、田舎からお世話になった人たちが押しかけてきたり(当時の後楽園遊園地が映る)、なかなか2人きりになれない…ため息ばかりだよ!という筋書きなのだけど、当時のご近所関係の濃密さに驚きしきり。大家さんはほとんど親代りで、お風呂もそこに借りに行く。花嫁さんはゆっくり入りなさい…という台詞があるのは、来るべき初夜を暗示しているのだけど、こんなご近所が固唾をのんで初夜を見守ってるなんて…!「キッスぐらいはしたんだろう?」「とんでもない…!」という台詞があって、結婚前は手を繋ぐ程度だったらしい。新郎は根上淳。
 
 
「新妻の寝ごと」
続編。若尾さんの友人が、旦那さんが芸者と浮気したとかでプンスカしながら新居に押しかけてくる。その友人が…岸田今日子!やがて物語は若尾さん実家を巻き込み、実父の浮気相手も芸者らしく、温泉宿を舞台にひと騒動持ち上がる…という物語。男性の浮気相手といえば玄人筋、という描かれ方ってこの時代に多いけど、いつ頃まで続いたんだろう、という新たな興味が。タイトルどおり若尾さんの寝ごとが肝になるのだけど、ほっぺぷくぷくの若々しさながら、声はもう若い時からずっと艶やかな人で、寝ごともなまめましくて聞いてるだけで照れてしまう。
 
 
「新婚日記 恥しい夢」
こちらのシリーズの旦那さんは品川隆二。電電公社にお勤め。周囲の反対を押し切って結婚した2人は経済的に困窮しており、電電公社の安月給では東京に部屋は借りられず、恩師の留守宅の留守番をする形で暮らし始めるが、珍しくもその家に電話があり、電電公社の職員たるもの、この恵まれた環境を近所の皆様に活用していただくほかにない。と、貼り紙をしたものだから、常に誰かが家に上がって電話中、2人きりになる隙もない…。そんな中、なんとか2人の時間を捻出しようと旦那さんが無理矢理、早退して帰ってきたりするなど必死。湯たんぽが小道具として使われてるのだけど、ブリキ製の、私も愛用している、昔ながらの、そのまま直火にかけられるタイプのもので、火にかけたまま2人が盛り上がってしまい、家中が靄になる中「しっとりした夜ねぇ」と若尾さんが言うのが楽しい。
 
 
「新婚日記 嬉しい朝」
続編。恩師の留守期間が図らずも早く終わってしまい、お金のない2人は運良く隣の部屋の2階を貸してもらう。しかし給料はカツカツで、旦那さんは残業を希望し、電電公社職員の残業は…夜間電話工事。若尾さんは若尾さんで家計を助けるべく調理師として働いていたのだけど、やがて炊事係にまわされる。ということを、お互い言い出せず秘密にしているという物語。ここでも男の浮気相手は玄人筋問題は継続し、お隣さんは藤間紫(この人が出てくるとぐっと玄人ムード漂う)で、二号さんだったのだけど、もう二号さんはイヤよ、と立場を返上し、パパさんに借りてもらった?一軒家の2階を貸すことで自活の道を歩み始める、という設定。訪問販売という仕事がたくさん存在したようで、アタッシュケースのようなものに商品を入れて一軒ずつまわりながら売ったり、冷蔵庫や箪笥購入の仲介をしたり、この時代は買い物ひとつとっても手間がかかるなぁ。
 
 
どちらのシリーズも新婚もので、どちらかの親と同居という設定ではないので夫婦2人のはずが、隣近所を含めた第家族のようなコミュニティがナチュラルに形成されている。あんなに老若男女揃った環境じゃ、いつも誰かが周りにいて、2人きりになるのは難しく、2人きりになりたい新婚さんの悩みは尽きぬよ…と、現代では存在し得ない種類の映画だった。東京のどこの設定なのか、庶民的な界隈だから、まだ道路もたいして整備されておらず、炊事も青空の下で居住空間が路地に拡張している。観ることを決めていたのは、ソフト化されていない(はず)なのと、滅多にかからない映画だから。映画としては「花嫁・新妻」シリーズのほうがコメディタッチも軽快で出来が良かったように思う。