この間、心が軽く冷えたので、こいつぁ良くねえ、ガツンとあれが必要だ。と、さっさと世界との接続をオフ、部屋を暗くしてキメてやったわ…ヤクザ映画を。エモーショナル、センチメンタルが苦手なので、ちょっといい話など全然役立たずで、よくできたヤクザ映画ほど癒されるものはない。
ジョニー・トー「エレクション 黒社会」、最高であった…。香港版アウトレイジのような物語だけど、アウトレイジよりこちらのほうが先だから、むしろアウトレイジが日本版エレクションということか。黒社会の最有力組織の会長は2年に一度、選挙で選ばれる。穏やかで冷静な男、武闘派だが商売は上手い男がその座を狙う。
レンゲ(中華を食べるときに使う陶器製のアレ)をバリバリ食べる、凶器は銃ではなく鉈を多用、他に丸太、スコップなど。スターウォーズでも、ミッションインポッシブルでも、散弾銃に空中戦、大がかりな攻撃方法がいくらでもあるのに、見せ場は原始的な方法(殴り合い、ライトセーバー等)で1対1なのね。映画的緩急ってやつだな、と思っていたのだけど、この映画は銃が登場せず(キタノ映画との大きな違い)、身体を接近させた生々しい暴力ばかり登場する。
どの男もいい顔してるなぁ!どうやったらそんな風にお腹だけ太れるの…?というおっさんの体型すら視覚のアクセントとして機能しており、特にレオン・カーフェイ…あまりに久しぶりだけど「愛人 ラマン」の面影はどこに…?という変貌ぶりで、シャツ、パンツ、ジャケット、髪型、靴、歩き方…すべて特徴があり、それぞれの個性がぶつかり合いまとまりに欠くかと思えば…強い存在感がすべてを凌駕し異様な調和を生んでいた。いるいる、こういう人…大阪を歩くとしょっちゅう…東京だと浅草界隈。着こなしがうまいって、むしろこういう人なんじゃないかしら。
夜の香港。ネオン、路地、屋内でも照明が絶妙で、男たちのフォルムをこれでもかと美しく強調していた。リアリティなど排除し、光を加えたい場所に衒いなくスポットライトが注がれる。自然光で撮られた白昼のシーンとのコントラストも見事。
田宮二郎の香りがするルイス・クーが冒頭、大学で経済学の講義を聴く場面いい!穏やかな中に時折、獣らしさを滲ませるサイモン・ヤムの姿と猿の群れを往復する最後のシークエンス。古めかしい儀式しかり、掟、掟と強調するくせに、抗いがたい獣性の発露で、均衡が崩れていくの、たまらない。長くない映画にギュッと見どころを配置し、見事な娯楽映画だった。続篇も早く観たい…のだけど、さまざまな人に「ミンチ肉がしばらく食べられなくなる」と忠告をいただいており、むしろ興味が募るわ…。