体調も戻ってきたし、そろそろ大丈夫か…そろりそろりと「浮雲」を観てみたら、さすがに名作っちゅうもんは侮れんもんやねぇ。という感じで2時間あっという間だった。ずいぶん前に一度観て以来なので二度目なのだけど、物語のトーンやスピードや音楽は忘れていないもんですねぇ。
戦時中に仏印で出会い、戦後、日本に戻ってからもずるずると関係は続く。一組の男女の場所を変え時間をかけて痴情はもつれる話ではあるけれど、戦後の何もない、何も持たない(ただし男は妻を持つ)2人の人間がいかに生き延びていくかの、縋るようなやるせない選択と生活も描かれていて、ああ、こんな背景があるから2人は離れられないのか、もしくはこんな背景がなくても2人は離れないのか、途中からわからなくなり、わからないから最後まで集中が途切れない。
高峰秀子に森雅之が素晴らしいなぁ。吐き棄てるような言葉を唇から押し出し、しかし目の隅では情を滲ませるような細やかな演技。そして2人に絡む伊香保の女・岡田茉莉子!伊香保の場面は半分ほどはセットではなかろうか。脱衣場の籠に準備された着替えの描写よ…!
…と、ここまで褒めておきながら何ですが、森雅之が原稿用紙に文章を書いていて、農業雑誌用の原稿らしいのだけど、「熱帯の果実の思い出」というタイトルが書かれていて。それが目に入った時、こんな甘ったるいタイトルで物を書くとか…やっぱりこの男、私は嫌いだな、と思ったのであった。