大統領選の結果で世界が騒めく中、ラウル・クタールが亡くなったとのニュスがひっそり流れてきた。92歳。
映画の前に舞台挨拶があったり、上映後にQ&Aがあったり、そんな贅沢な場にずいぶんたくさん居合わせてきて、誰を見たのが一番嬉しかった?と聞かれることもあるけど、これぞハイライト!と今になって思うのは、パリのシネマテークで、ラウル・クタールの舞台挨拶の後に「突然炎のごとく」を観た、あの夜ではなかろうか。
ヌーヴェルヴァーグ作家の評伝を書いているらしき映画評論家らしき男性と一緒に登壇し、ラウル・クタールの紹介にあたって、数多の映画は彼の前で生まれた、ドゥミ、ジャン・ルーシュ、そしてゴダール!ゴダール!ゴダール!とゴダール連呼した後にトリュフォー映画の上映が始まるオチにはトリュフォーかい!とツッコミを禁じ得なかったけれど…
ゴダールとラウル・クタール
トリュフォーとラウル・クタール
私が見たのは80代のラウル・クタールで、カフェで隣に座っても絶対気づかないよね…という物静かそうな老人だったけど、ラウル・クタールの写真って口が半開きなのが80%ほどで、登壇した80代のラウル・クタールも80%ほどの時間は口が半開きだったから、あ!本物だ!と、その点で識別可能であった。そして翌日、興奮して周りに、昨夜シネマテークでラウル・クタールを!と話したのだけど、女優俳優ならともかく、監督ならまだしも、撮影監督って表に出る存在じゃないので映画好きというわけではない周りには誰にも通じず、ラウル?どういうスペルなの?Raoul..Coutard…と答えてるうちに、名前を覚え間違えずに書けるように…。
ヌーヴェルヴァーグは彼の目の前で起こった出来事の総称。挨拶が終わると、客席に降りて、上映の最初をちらっと見届けて出て行ったラウル・クタール。短い刹那でも「突然炎のごとく」がかかる場所で、撮った人と人生の時間が重なった幸せな夜だった。