ギンレイホールで。アラン・レネ「風にそよぐ草」を観る。忙しかった週の週末の朝イチの回で観たせいか、頭がまるで起動しておらず、アラン・レネ・・アラン・レネ・・・何の人だったっけ。って巨匠の煌めくお仕事群もすっかり忘れて見始め、何だこれは何だこれはと唸ってるうち、あ、そうか、マリエンバートの人!って思い出して、展開の不条理っぷりも腑に落ちた。日本で公開されるフランス映画ってはるばる海を越える過程で様々なふるいにかけられるのか、メジャーなものほど退屈で、マイナー扱いされる映画のほうがフランス映画の奇妙なエッセンスが濃いと思うのだけど、年に数本出会えるか出会えないか、の、濃い映画に偶然出くわしてしまったよ、寝ぼけ頭で。
ギンレイホールの作品紹介は「駐車場の隅に捨てられたバッグを拾ったジョルジュ。中の財布に入っていた小型飛行機操縦免許の写真を見て、持ち主の女性マルグリットに夢中になってしまう・・・ ひょんなことから出会った男女の奇妙な関係を描いた巨匠アラン・レネ監督による大人のラブ・ストーリー!」とのこと。ま、確かにそうなんだけど、ポスターの電話をかけあう妙齢の男女・・から妄想するに、奇妙っても限度があって、ちょっと小気味いい程度の奇妙さ加減で、伴侶と死に別れたり何だったりで独り者同士の男女がぎこちないながらも徐々に心を開いてく。みたいなハートウォーミングな展開じゃないの?ってタカをくくってたんだけど、さすがにアラン・レネ。想像の遙か斜め上をものすごい速度で飛行していく物語なのであった。フランス版のこのポスターのシュールな絵のほうが、よほど映画に近い。
思い返してみると冒頭のシーンから奇妙さは漂っていた。「女はバッグをスリに奪われた」って状況説明だけでいいはずなのに、彼女がMARC JACOBSの店で悦に入った表情で靴を選ぶシーンがそれなりに長く続く。その後、駐車場で財布を発見する男の、駐車場にいる若い女たちへの暴力的なモノローグも背中がぞわっとする奇妙さ。仕事中の警官なのにやたら酔ってるマチュー・アマルリックも奇妙だし、話のどこにも背骨が見つからないまま最後まで暴走して墜落するのである。効果音も遊びまくり。男の妻や、女の友人など脇役たちの物語への絡み方も支離滅裂。
アラン・レネ89歳の作品らしい。オリヴェイラや鈴木清順が年々、作品の狂度を増していくのを若輩者として呆然と眺めつつ、どうしたらこんな飄々と、深刻な顔ばかりしたがる世間をケケケと嘲笑う粋な老人になれるのだろうか・・と映画の内容は脇に置いて、監督の人生に憧れを抱いてしまうのだけど、この作品によって憧れ老人リストにフランス代表、アラン・レネが追加された。
あ、この主役の女性は、趣味で飛行機を操縦するスキルがあり、操縦技術の高さとキャラクターから飛行場の男どもに非常に愛されている。奇妙なおっさんを追いかけるより、飛行場の男どもから愛する誰かを見つけるほうが、よほど彼女の幸せになりそうだと思ったのだけど・・そんなありきたりな物語じゃアラン・レネの映画にならないから、しょうがないね、きっと。