イメージフォーラムで。ジャック・タチ「パラード」、1974年、タチ最後の長篇。ほとんど映画館にかからないのでは…私は初めて観た。この特集の目玉、後から思い起こすと「パラード」だったな、って思いそう。スウェーデンのテレビ局の招きでテレビ用に製作された作品で、サーカスの座長がタチ、自分も時々芸を見せながら、観客を巻き込んで曲芸あり音楽ありのショーが始まって終わる。そういった情報をインプットせずに観たので、これはドキュメンタリー?フィクション?って考えながら観たけど、観終わってもその境界線は曖昧なまま。どっちだっていいじゃないか、という気分になる。
曖昧な気分にさせられる最大の要因は、観客が素人とは思えないほど突然、ステージに巻き込まれても達者なリアクションを見せるからで、実際のところ撮影は3日間あったらしいので、あの達者なリアクションも演出のうちなのだろう。この特集で再見する予定の「フォルツァ・バスティア78」を観た時、ドキュメンタリーのはずなのに映ってる素人が徐々にタチ映画の緻密に計算された登場人物にしか見えなくなる瞬間があり、何がどのように映っているかよりも、誰がどんな視点で世界を切り取ったかこそが映画だなぁと改めて思い知らされたことを、「バラード」でより強く認識した。
そして何より目玉はタチ本人による芸。当時66歳のタチの、それまでの人生が仕草のひとつひとつに滲み出てるような軽くて重みのある芸は、軽快で洗練されているのに同時に、末広亭で見た昭和のいるこいるの漫才や、なんばグランド花月で見た吉本新喜劇の、私が小さい時から何一つ変わらないベテランたちの予定調和なギャグを、お弁当つまみながらずずずと水筒やペットボトルから緑茶をすすりつつのんびり眺めているような親近感もあって何やら妙だった。幕間、舞台裏で談笑中、一座の若手からリクエストされロンドン、パリ、南米の警官の動きをパントマイムで見せるシーン、素敵だったなぁ。
そしてムッシュー・ユロを演じている時よりきっとタチの素に近いだろう衣装は、popeyeのスナップ特集にシティボーイが何十年か先の未来たどり着きたい目標としてのヨーロッパの渋い親父として登場しそうなこなれ感で、芸を見たり衣装を見たりで目が忙しい。ベージュのスーツに、赤のタートル、靴下も赤!のバランスは、枯れた見た目、エレガントな仕草、特徴ある姿勢の長身とあいまって、洋服はやはり西洋のものだし、タチは本当に洋服が似合う人だなぁと思わされた。タチの代表作は過去に何度も見てるけど、今回の特集は時間の都合で長篇1本しか見られない、という方には是非「パラード」をオススメしたいthis is Tati!な一本。