頭が冴えてきて、ようやく新年が始まるみたい。年末、映画納めに観た「教授と美女」から映画の記録をリスタート。
シネマヴェーラ渋谷にて、ハワード・ホークス監督特集より1941年「教授と美女(原題”Ball of fire)」。脚本はビリー・ワイルダー&チャールズ・ブラケット、傑作輩出コンビでルビッチ「青髭八人目の妻」も「ニノチカ」も2人の脚本によるもの。
一軒家に長らく篭り、百科事典の編纂をする、専門分野の異なる8人の男。男はふんだんにいるけれど、女っ気はなく、身の回りの世話をする強面の女のみ。冒頭しばらく男たちが徐々に登場し、さりげなく紹介される時間が続いたので、早く…早くバーバラを!断固としてバーバラを要求します!とスクリーンに念を送る。
バーバラ・スタンウィック!「レディ・イヴ」で彼女を知って以来、めっきり好きな女優ランキング上位に。ああ、男たちはもう十分、バーバラのあの引き締まったウェストと足首を…と渇望した瞬間、ジャズクラブの場面に差し掛かり、バーバラ登場!しかもウェストと美脚をこれでもかと強調した、冷静に考えるとものすごく奇抜な、けれどバーバラが着ると不思議に説得力のある衣裳で。
「教授と美女」と「レディ・イヴ」は同じ1941年の映画らしい。「レディ・イヴ」で衣裳に釘付けになったのは露出の激しさゆえだった。身体を覆う面積は少なく、ウェストと脚を強調する衣裳はイーディス・ヘッドによるものだった。「教授と美女」もそんな1941年のバーバラの身体の魅力をこれでもかと伝えるもので、映画衣裳に留まらず、すべからく衣服というのは、着る人の身体の最も美しいパーツをこれでもかと強調してこそ、衣服と着る人の双方が引き立つことを思い知らされる。
バーバラ・スタンウィック、絶世の美女というよりは親しみやすい、写真で見るとバーバラより造形的に優れた女優はたくさんいるけれど、動いた時にあれほどオーラを放つ女優は多くはない。ダンサー出身の身のこなし、生まれながらのフォルムに加え、日々の鍛錬が削ったであろう脂肪、際立たせたであろう筋、身体が動くたびに「活動」写真を観る歓びがもたらされる。
ゲイリー・クーパー演じる有能なれど世間知らずな言語学者が、生きたスラングの採取のため街に繰り出し、最もスラングの溢れる場所であるジャズクラブでバーバラを見初め、男どもの館に招待する。キラキラ衣裳のまま館に乱入したバーバラと8人の男たちの異種格闘技。バーバラが彼らにダンスを教え打ち解け始めると、館全体が身体性を初めて獲得したかのように色づく。
やがてスクリューボール・ロマンティック・コメディの定石として、女っ気のない人生を送ってきた教授(ゲイリー・クーパー)と、小賢しくも魅力的な美女(バーバラ)が惹かれあっていくのだけれど、この感じ、最近どこかで観た気がする…ふと考えてみれば「逃げ恥」ではないか。特に教授!未知の行動をとる前にまず本で調べる(=ググる)とか、キスの味を覚えた途端、大胆さが開花していくなどの細かな描写…1941年の平匡さん発見!
身長差のある2人に効くウィットのあるキスシーン、ヤムヤム(=キスの俗語)の後、「もう一回ヤムヤムをお願いします」とおねだりする教授の表情こそムズキュンの極み!大好きなバーバラに加え、ゲイリー・クーパーまで可愛い「教授と美女」、2016年は最高の映画で暮れた。