CINEMA STUDIO28

2016-02-17

Cinema studio28 award 2015 / Best cinema books

まるで思い出した時に書いてるようなランダムな2015映画ベスト、楽しく読んだ映画本について。去年は仕事と映画とその他・私生活の隙間を縫って連載を書いていたこともあり、まとまった余分な時間がなかったので、批評などは読めず(もともとほとんど読まない)、隙間にぱらぱら読める軽いものばかりでした。
 
 
 
「ルビッチ・タッチ」ハーマン・G・ワインバーグ 国書刊行会


ひとりの映画監督について、史実が丁寧に紐解かれ、フィルモグラフィを網羅的に紹介してくれる本が好き。ルビッチについて、まとまった文章をほとんど読んだことがなく、ずいぶん前に東京であったらしい数本のみの特集上映のパンフレット(古本で購入)に掲載されタイトルだけのフィルモグラフィと、英語版のウィキペディアなど頼りにコツコツ観ていたので、この本の刊行は夢のようだった。当たり前だけど、ページをめくるたびにルビッチルビッチルビッチルビッチとルビッチ無双で幸せ。原書は1977年に刊行されたもので、この日本語版はトリュフォーによるエッセイや秦早穂子さんと山田宏一さんの対談も収録されていてお得感たっぷり。そしてこんな分厚い本を読んでも、ルビッチ・タッチっていったい何なのか、言語化するのは難しく、欠片だけでも真似できそうもないところがルビッチの素敵なところ。シネマヴェーラの特集と同じ時期に発売され、2015年の春はルビッチの春だった。
 
 
 
 
 
「前田敦子の映画手帖」前田敦子 朝日新聞出版
 
 
重厚なルビッチ本から、いきなり軽くなったね!と侮るなかれ。私の中での宝物レベルは同等、最上級なのである。そしてこの2冊、発売日が同じ日。2015年4月30日はきっと素晴らしい映画本が誕生する煌めく星の配置、宇宙も祝福した2冊…(大袈裟)…!夢中になれる、大好きな何かに出会ってしまった女の子の書いたキラキラの本なのです…!
 
 
前田敦子さん、アイドル時代から好きで、女優になってからも楽しみに出演作を観ており、そして本人は名画座に1人で出没し、新橋文化劇場にもゴッドファーザーを1人で観に行ったと何かで読み、そんな女の子のこと気にせずにはいられない。と思っていたところ、アエラの連載をまとめた映画本が出ると知ってさそく購入。難しい言葉がひとつも出てこない、観終わった瞬間の興奮をシンプルにそのまま真空パックしたような「すごい」「かわいい」「かっこいい」多用の文章は、とっても素直。読む人によってはその軽さが気になるかもしれないけど、私は女友達と一緒に映画館に行って、観終わった瞬間の、わぁー!って顔を見合わせてきゃいきゃい言うような、あの楽しい瞬間をいくつも思い出した。
 
 
周囲の人から薦められた映画の受け止め方もいい。映画を薦めるのって難しいことで、私も時々そんな機会があるのだけど、1本ずつ、「あなたにこれを薦める理由」を800字は書けそうな薦める理由があって選んでいるので、「観たけど、どこが面白いの?」とか言われると真剣に傷つくし、あまりにそれが続くと二度と薦めないぞ!と心に誓いもする。この本には映画監督や周りにいる人々に薦められて観た映画がいくつも出てくるけど、綺麗にラッピングされたチョコレートの箱を開けるみたいな手つきで、わー!と観たのがわかるような感想が書かれていて、ああ、彼女に映画を薦める人は幸せだろうな。秋元康には「ベティ・ブルー」を薦められ観て、まだ10代の自分には過激すぎて驚いたけど、「ただ、秋元さんがそういうことを気にせずに、こういうすてきな作品もあるんだよという意味を込めてすすめてくれたことが、とてもうれしかったのを覚えています」と書かれており…なんて受け取り上手なの!私も前田敦子さんに映画を薦めたい…!(そしてベティ・ブルーを薦める秋元康って…!)
 
 
薦められた映画も楽しみつつ、しかし観る映画はしっかり自分で決めてるようで、予告編が必要以上に情報が多いことが気になって、いつも映画館では予告編の時間は外で待ち、本編が始まる直前に着席するとのこと。そして観たい映画はポスターの雰囲気を観て決める、と。昔のハリウッド女優の本を読みたくて本屋に行き、グレース・ケリーの本を買って読み、出演作品を制覇、この本では「泥棒成金」「喝采」「上流社会」を紹介。私が映画を自主的に見始めた10代の頃の選び方にかなり近いのだけど、その頃と今じゃ情報量もまるで違って、芸能界のど真ん中にいてどんな情報でもとれそうな彼女が、こんなアナログな方法で観る映画を決めてるなんて…自分の目を信じてないとできないこと。映画と自分があればいい、余計なものは要らん。という姿勢の潔さよ。
 
 
あくまでさらっと書かれたこの本、けれど、スクリーンのこちらでじっと映画を観る若い観客である彼女と、時々スクリーンの向こう、女優になる彼女、そういえば歌って踊っての世界の人だった彼女…若さと、若さに似合わない経験値の高さを同時に匂わせて、読めば読むほど面白く、寂しい思いで読み終わると、最後のページに刊行記念トークショーの応募券がついてたので、ハガキに貼って初めてそういうの応募しちゃった!そしてあっさり落選した。そう、日本で一番有名なアイドルグループのトップだった人だものね、会いに行くには競争率高いってこと忘れてた。もっと何枚も応募すれば良かったのかしら。初回限定オマケで「本人セレクトによる名セリフしおり」がついていて、私のは「エデンの東」のセリフだったのだけど、これも何種類かあるみたいなのでコンプリートしたい…など考え…はっ!これが噂のAKB商法というやつなの!CD何枚も買って総選挙に投票する皆様の気持ち、ちょっとだけわかったかも…。
 
 
ああ、こんなに書くつもりなかったのに気がつけば長くなってる。好きって気持ちは暑苦しいわ。あと2冊あるのだけど、また明日(たぶん)…!