CINEMA STUDIO28

2015-01-21

La Vénus à la fourrur


 


ヒューマントラストシネマ有楽町で。ロマン・ポランスキー「毛皮のヴィーナス」を観る。カメラを持ち歩くことにした。と言った舌の根も乾かぬうちにさっそく忘れたので、iPhone写真。この映画館好き。会員システムがとても使いやすい。


マゾッホの自伝を戯曲にしたものをさらに映画化した。という成り立ちは複雑だけど、映画自体はシンプルで、最初と最後にパリと思われる街の劇場周辺が映されるだけで、あとは劇場内、観客席と舞台上、時々舞台裏のみが映される。登場人物も2人だけ、男女ひとりずつ、エマニュエル・セニエとマチュー・アマルリック。


「毛皮のヴィーナス」という戯曲の主演女優のオーディションに遅れてきた女は、奇しくも役名”ワンダ”と同じワンダという名前。ひとり劇場に残っていた演出家・脚本家と、女優の2人だけの読み合わせが始まる。粗野で図々しく、安っぽい服を着てびしょ濡れで登場したワンダは演じ始めた途端、”ワンダ”に豹変し、マゾッホの自伝に密かに共感していた男はワンダの豹変にも、目の前にいる”ワンダ”にも夢中になっていく。素と演技、”ワンダ”とワンダを女はめまぐるしく往復し、やがて男と女の役割も入れ替わり・・。


覗き見する楽しみってこういうことなのかな。そして男の求める”ワンダ”が役を脱ぎ捨て、”ワンダ”とは女の意志の外にある、ただの男の欲望の投影に過ぎない。と吐き棄てて高笑いしながら去っていく最後はゾクゾクした。エマニュエル・セニエの姿、フェリーニの映画に出てくるグロテスクな女みたい。ポランスキーの、強烈な女たちに彩られた強烈な人生よ・・・。

 

そして映画館ならではと言いましょうか、隣に座ったサラリーマンらしき服装の男性が、始まったとたん眠りに落ち、やがて熟睡・・鼾が響き渡る・・・という状況だったので、目と頭をフルに使って楽しむ2人芝居、集中力の持続が難しかった・・。私はトリュフォー映画が大好きだけど、トリュフォー特有の中だるみに負けて途中、必ず眠ってしまう映画がいくつかあり、「恋愛日記」が特にそうで、男が女の脚を追いかける→眠る→目を開けると、まだ男は女の脚を追いかけている→眠る→ずいぶん時間が経ったはずなのに、まだ男は女の脚を追いかけている→え?→FIN→え?という記憶しかないのだけど、「恋愛日記」とは、男が女の脚を追いかける話であるな?と人に話してみても、そうである!と同意あるのみなので、間違ってはいないらしい。


90分ほどの短い「毛皮のヴィーナス」の95%を、その人は眠っていた。目が覚めるたびに男女の関係がくるくる入れ替わる「毛皮のヴィーナス」、彼にとってはどんな映画だったのだろう。