CINEMA STUDIO28

2015-01-24

The student prince in old Heidelberg


 
シネマヴェーラ、「雨に唄えば」の併映はルビッチ「思ひ出」。1927年、アメリカ製作のサイレント。「雨に唄えば」は映画中映画としてサイレント映画が上映されているシーンがたくさん出てくるので、「雨に唄えば」+「思ひ出」の組み合わせ最高。観る順番によって見方も変わりそうな。
 
ザクセン公国の皇太子カール・ハインリッヒと、留学先のハイデルブルグの下宿屋の娘・カティの恋が描かれる。恋の場面は中盤からで、前半は留学前、幼少期、友達と元気に遊ぶ同年代の子供たちを指をくわえて眺めてる皇太子や、皇太子の成長に熱狂する公国の人々の姿が映し出され、やがて自由でちょっとルーズな家庭教師との出会いにより、息の詰まりそうな人生が徐々に開かれていく。この前半があったから、留学先での恋が活きる。
 
 
皇太子と下宿屋の娘の恋は、「ローマの休日」の男女反転版のような伸びやかさがあり、けして結ばれないこと、タイムリミットが迫ることを知っているからこそ美しい。月夜に皇太子が娘を追いかけ、森を走り、木々をすりぬける姿が横移動のカメラで映し出される。走り、木の後ろを抜け、走り、木の後ろを抜け、走り…木の後ろを抜けず、反対方向から猫が歩いてくるあのショット!扉の演出はほとんどなかったけど、これこそルビッチ・タッチ!そしてたどり着いた月に照らされると夜の花畑。月の光を浴びて咲く白い花。
 
字幕が極端に少なく、あったとしてもほとんど何も説明していない中、2人がお互いの名前を呼びあうとき、字幕に書かれた名前がズームされるのが、こんな手法で恋の高揚を表すこともできるのか…と唸らされる。
 
 
結末はもちろんほろ苦いものの、もう一度、娘に会いにハイデルブルグに馬車を飛ばす前の、亡くなった国王の肖像画の前のでワイングラスを掲げ、「もう1日だけ、人生と愛を!」という台詞の素晴らしさ!
 
 
 
国王になった彼を、王様っていうのは本当にいいものなのだろうねぇ。と市民たちがしゃべり合うショットは前半の反復。ラストの表情のせいで、数日は余韻に浸るはめになる。ルビッチのサイレント、何本か観たけど、今のところこれが暫定1位かもしれない…。
 
 
恋とはどういうものかしら?の、私の考えるひとつの答えとして提出したい1本。「The student prince in old Heidelberg」という英題に、「思ひ出」と見事な日本の名前を与えた人にワイングラスを掲げたい。