CINEMA STUDIO28

2015-01-15

The lady eve





シネマヴェーラ「映画史上の名作」特集でプレストン・スタージェス監督「レディ・イヴ」を観る。「シャレード」と併映だけど「シャレード」、それほど面白いと思えないのでラスト1本でこれだけ。プレストン・スタージェス、何年か前、シネマヴェーラの同じ特集で観て名前を覚え、特集ラインナップが発表されるたびにルビッチの次に名前を探す人。脚本家から映画監督に転身した最初の人で、スクリューボールコメディーの名手。いつも思う。「スクリューボールコメディー」って言葉、大好き!「映画は大映」と同じぐらい、いい映画言葉。





「レディ・イヴ」は1941年の映画。シルクハットかぶった蛇が尻尾でマラカス振りながらリンゴに絡みついていくオープニングのアニメーション、洒落てる!シルクハットも蛇もリンゴも全部映画からのモチーフ。ヘンリー・フォンダ演じる男が蛇の研究者、さらに大富豪の御曹司。南米からの客船のデッキから女がわざと食べかけのリンゴを男の頭上に落とすのが2人の出会い。


船中の総ての女が、御曹司を狙ってやきもきする中、手慣れたもんよ。と、あっという間に部屋に誘い込む女は、実は詐欺師で…という物語。女詐欺師がちょろまかしてやろうと近づいた男にうっかり惚れてしまうけど、素性がバレてダメになる…でもね…というところまでは展開が読めるのだけど、そこから先、この女の賢いこと!「ゴーン・ガール」のエイミーも真っ青の切れ者。あきらめない女は上流階級の女に扮し再び男に近づく。うまくいったと思ったら自分から台無しにして…(列車のショットが最高!)。え?何考えてるの?と思ってたらさらなる展開が…。さすが名脚本家で名監督、これぞスクリューボールコメディー!と唸る傑作。





ヘンリー・フォンダ、船に乗る前はアマゾンに籠りっきりで蛇研究にいそしんでいたから、1年ぶりに近づく女がキミとは刺激が強い…と言いながら近づいていく。蛇のことばかり考えてます。という男だから素朴。手練れの女にかかったら、すぐこんなふうに、くたーっとなる。




そしてヘンリー・フォンダのドジっぷりは至る所で発揮され、女のドレスの裾には気を使えるくせに(左)、頭上には不注意で珈琲まみれに(右)…。90分少しの短い映画で、何度ヘンリー・フォンダがコケる様子を目撃しただろう。ヘンリー・フォンダが!あの真面目なヘンリー・フォンダが!こんな役を演じるなんて!「怒りの葡萄」「荒野の決闘」「12人の怒れる男」あたりから1本と、この映画を組み合わせて2本立てで観てみたい。ずっと脳内にある「山猫」で没落した貴族がアメリカに流れ着いて夢果てる「泳ぐひと」とのバート・ランカスター特集とセットで、それが仕事とはいえ俳優ってすごいね特集、組んでみたい。


見たことのないヘンリー・フォンダに驚きつつも、女詐欺師を演じるバーバラ・スタンウィックには終始うっとり。見た目だけではもっと美しい人はたくさんいるのだろうけど、演技も仕草もキレがいい。小股の切れ上がったような。という表現がぴったり。レストランでコンパクトを出して化粧直しをするフリをしながら、「御曹司とそれを狙う女ども」をじっと見つめ勝手にアフレコし始める場面から演技にうなり始め、台詞まわしに感じる淡いミヤコ蝶々の香りは何…と思いつつ観ていたら、男が「Snakes are my life,in a way」蛇こそ我が人生なのさ、と言った後、絶妙の間を置いて「What a life!」と女が言った時、脳内で「…なんちゅう人生やねん…!」ってミヤコ蝶々の声がついに響いた。イーディス・ヘッドによる衣装の数々はなかなか露出が激しく、着こなすバーバラ・スタンウィックの身体の綺麗なこと!食べ物を節制してます。という身体ではなく、動いて引き締まってます。という身体で、2人が接近のする靴のシーンでは美脚が見事な小道具になっていた。バーバラ・スタンウィック、ダンサーでもあったのだな。バネが仕込まれてるみたいに弾む身体、弾む台詞。彼女のおかげで見事なスクリューボール・ロマンティック・コメディ!


最近話してて知ったのだけど、私の周囲の映画好きの女性にはロマコメ嫌い、ロマコメ苦手な人が多いらしい。確かにどれを観ても同じに見えるし、気持ちはわからなくはない。でも私はロマコメも好き!美しい男と女、歯の浮くような台詞、ロマコメは映画館の華である!それから、映画館で見逃したロマコメを何も考えたくない疲れた夜にぼーっとDVDで観るのも好き。反目しあっててもすれ違ってても最後にはうまくいくんでしょ?って決まってるから、何も考えずに観られてラク。カロリー消費しない鑑賞。


自分に合ったロマコメを選ぶコツを考えてみたら、私の基準は3つ。


【A】好きな男性が出てくること
見た目でもいいしキャラクターでもいいけど、見ていてストレスになる要因ができるだけ廃除されている男が、主役(もしくはヒロインの相手役)であること。見た目が好みすぎる俳優が出てて「2時間この顔を観られるだけでもういい。筋書きなんてどうでも」というのも幸せなこと。勤労意欲の高い人が好きなので「無職だけどいい男」とか2時間観るのは辛いので廃除したい。


【B】しゃんとした女が出てくること
同性への好みというのもあって、ノーラ・エフロン映画(恋人たちの予感、めぐり逢えたら、ユー・ガット・メールなど)を見返していて、ノーラ・エフロンのロマコメが古びないのは、女がみんな自立してるからではないか。という思いに達した。みんな職業を持ち自分の洋服や食事は自分で買う女ばかり。自分の欠落を埋めてもらうための誰かを探してるわけじゃないから、イライラせずに観られる。ダメな私でも愛して。みたいなのは苦手。


【C】テンポが良いこと
せっかちなので「速い映画」が好きなのだけど、ロマコメでテンポが悪いと「あの人に会えなくてぐずぐずする私」やら「別れを引きずってドロドロの俺」みたいなのをじっと観る時間を耐えなければならない。辛い。知らんがな、と思う。恋愛映画の名手、のような人ではなくて、いろんなジャンルの「速い映画」を作る人が今回は恋愛を撮りました。という映画を選ぶとハズレがない。スタージェスもルビッチも、川島雄三も増村保造もみんな速い。監督で選ぼう!と言ってしまうと身も蓋もないのだけれど。


スタージェス「レディ・イヴ」は、【B】【C】は極上、ヘンリー・フォンダは好みじゃないけど、普段と違ったヘンリー・フォンダは新鮮だったし、蛇学者として働き者なので【A】もそこそこ満たしてる。かなり高得点のロマコメなのだった。


コメディではないけど恋愛映画で「ブルー・バレンタイン」が逃げ出したいほど苦手だったのは3つの要件どれもダメだったから。では今までのところで私にとって最高のロマコメは何か?と考えると、増村保造「最高殊勲夫人」で間違いない。たいして恋愛に興味なさそうなマイペースな若尾文子よし、テンポ最高。





そして一番難しい【A】については、川口浩史上最高に可愛い川口浩が観られて幸せ!100点満点で200点!