CINEMA STUDIO28

2014-01-04

Super sad true love story

 
 
ゲイリー・シュタインガート著「スーパー・サッド・トゥルー・ラブ・ストーリー」読了。年末年始の享楽的な時間の合間に読み進めていたから時間がかかってしまったけど、ものすごく楽しめた。日本では翻訳が出たばかりだけど、アメリカでは2010年に出版され、その年のニューヨーク・タイムズ年間ベストとのこと。
 
 
西暦何年という設定はないけど、近未来の物語。あらすじから引用すると「経済破綻と一党独裁による軍事化が進むディストピア。誰もが信用度や性的魅力を数値化され、手元の端末でプロフィールまで検索される評価経済社会。本という過去のメディアを愛し、不死を夢見る冴えない(性的魅力が最低ランクの)レニーと、家族と自分の幸せを求めてあがく美しきユーニスが出会う。」
 
 
39歳の男・レニーはロシア系、ロシア生まれで幼い頃アメリカに移住した作者のプロフィールと重なる部分もあり、風貌の描写も写真を見る限り、作者そっくりな感じ。私小説要素もあるのかな。近未来小説ということでイメージしながら読み進めるために主役2名を脳内キャスティングしながら読んだ。レニーは作者自身!

 
 
 
20代の女・ユーニスは韓国系美女ということで、私の一番好きな韓国系美女、少女時代のユナちゃんをキャスティング。
 
 
 
 
この2人の近未来ラブストーリー。インパクトあるぅ!アパラットという首からかける小型スマホのような装置が頻繁に登場し、通行人にかざすだけで見知らぬ誰かのプロフィール・・名前、経歴、職業、収入、性的価値(ファッカビリティと呼ばれている。面白すぎる)まで瞬時にわかってしまう。レニーのファッカビリティは著しく低いのだが、ユーニスを連れて歩いてるだけでファッカビリティが上昇するほどユーニスは美しい・・というくだりがあるので、ユナちゃんほどの美女をキャスティングしてみた。
 
 
400ページに及ぶ長い物語、前半は2人が出会って荒廃したNYで同棲するまでの顛末を、ドルの価値なぞもはや地に落ち、アメリカが中国の属国のような位置にあるほど弱っているという政治経済状況およびアパラットやクレジットポール(近づくだけでその人の資産状況が丸見えになる装置。道にたくさん建っている)など近未来評価経済社会の日常描写が続き、後半は意外なほどクラシックな恋愛の盛り上がりと破綻が描かれる。レニーが克明に心境を吐露する日記と、ユーニスが多用する家族や親友とのSNSのようなサイトを通じたメールやチャットが交互に続き、1組の男女の恋愛が、それぞれの視点から描かれていく様子がおもしろおそろしい。レニーが美しい女と出会って浮かれる様子を日記に綴ったかと思えば、ユーニスはキモいおっさんと出会ったんだけど・・と同年代の親友に打ち明けるといった調子で。
 
 
(ここ以降は結末に触れます)
 
 
近未来ロミオとジュリエットという形容も読了後にはしっくりくる古典的なラブストーリー。後半部分は近未来という設定も忘れるほど、レニーとユーニスの蜜月とその崩壊が描かれる。特徴的なのはアメリカという国家の崩壊と同時進行で描かれること。外出も危ういほどのディストピアとして描かれるアメリカの厳戒生活が2人の関係の進行に、スパイスとして良くも悪くも刺激を与えていく。ユーニスがいっけんまるで相容れなさそうなレニーに惹かれたのは、彼女の完璧な容姿の奥にある絶望的な家庭環境がもたらす諦念が他者につけ込まれる隙を生んでいるように思え、「本」という遙か昔のアイテムをいまだに愛するのは趣味人ではなく変態として奇妙な目で見られるような近未来で、詩や物語を愛するレニーのロマンティックでセンチメンタルな性格は傷ついたユーニスの持つ隙に入り込む要素となり得たと同時に、破綻の要素にもなってしまうのがスーパー・サッド。
 
 
家族や国家が崩壊する時、物語や本は役に立たず、それを信じるレニーもロマンティックなだけで彼女の現実を改善してはくれない。ユーニスがレニーとつきあいながら徐々に惹かれてしまう新たな男が、若く容姿の良い男というわけでもなく、レニー以上に年上(70歳!)だけど、ユーニスの抱える問題を現実的に解消できるほどに権力を持つ男という、2人の男の魅力と弱点の対比もスーパー・サッド。この年上の男の脳内キャスティングは難しいけど70歳に見えないほど若々しく、あやふやな何かを力強く信じる男って例えば70歳になったトム・クルーズなんてどうかしら・・男前すぎるかな・・。70歳時点のクリント・イーストウッドでも良いかも。
 
 
NY戒厳令の日々、レニーがユー二スに「本」を読んで聞かせる場面はあまりにもロマンティック。読む本がクンデラ「存在の耐えられない軽さ」というのも。生まれてからテキストはスキャンしたものを読むだけだったというユーニスが「本」に触れるのだが、物語を理解しているのかしていないのか曖昧なところが、2人のジェネレーションギャップなのか、気持ちがすれ違っているのかはっきり解らないところも良い。映画にするならこの場面はしっかり撮ってほしい。しかし家族問題で切羽詰まった女には、1円にもならない男のロマンティシズムよりも、金と権力で問題を具体的に解決してくれるより強い男に心が動いてしまうのも理解できるよ・・。欲しい何かを現実的に与えてくれる人に惹かれるのは当然のことではないだろうか。
 
 
一瞬であろうと、解り合えたのか曖昧だろうと、トゥルー・ラブ・ストーリーな描写をところどころ感じ取ってしまうだけにスーパー・サッドな展開がなおさら染みてくる。分厚い本を読み終わった頃、ポップなタイトルの持つ意外な重みと、描かれるディストピア、iPhoneみたいなアパラットという装置等の近未来が、案外そう遠い未来ではなく、既に自分たちが片足を突っ込んでいる現在進行形ということに呆然とするのだ。ここ最近映画や小説で触れたどの物語より、現実にあり得そうな物語に思えた。こんなスーパー・サッドな物語が新年最初の読書に相応しかったのかどうかは考えどころ。去年映画版を観て素晴らしかった資本主義(=アメリカ)が破綻する直前の物語「コズモポリス」の続編的な位置づけとして読んでも面白いかもしれない。