シネマヴェーラで。1952年のイギリス映画「初恋」を観る。「ローマの休日」以前のオードリー・ヘプバーンが観られる映画ということで、日本では「オードリー・ヘプバーンの初恋」というタイトルでソフト化されている。でも、オードリーは主役の妹で、登場場面も多くない。有名になる前夜のオードリーを中心に添えた初恋の物語と期待して観ると肩透かしを喰らう。
30年代のロンドンを舞台にした、生き別れになった恋人に久しぶりに会ったら犯罪に手を染めており、自分まで巻き添えにされてしまう薄幸の女の物語。彼らの存在は闇に葬られておりthe secret peopleという原題そのまま。おそらく、オードリーが後に大成功しなければ誰にも見向きされない映画だったのだろう。
映画の見どころは、オードリーがバレエを踊るシーンが何度かあること。「ローマの休日」の前年だというのに、別人のように地味。地味な衣裳、ヘアメイク、特にオードリーの美貌を際立たせるでもなく、「主人公のただの妹」として写すだけのカメラのせいで、磨けば光る原石らしさも感じられない。この時点から1年であの「ローマの休日」のキラキラに至るのかと思うと、底力のある女は恐ろしいということ以上に、「ローマの休日」はオードリーを世に送り出すために、その道のプロフェッショナルが集結していたのだな、と裏方の努力を思った。
物語の途中、ロンドンからパリに移動し、1937年のパリ万博を見物に行くシーンが楽しい。家族で各国のパビリオンを巡り、擬似世界旅行を堪能する姿は、ずいぶん世界が広かった頃のささやかな楽しみが映し出されていて微笑ましい。