CINEMA STUDIO28

2015-11-14

Rope / un journal

 
 
ヒッチコック「ロープ」(1948年)…面白かった!ヒッチコック初のカラー作品ということで色も綺麗、スクリーンで観たいなぁ。興味は「ヴィクトリア」から派生するワンシーン・ワンショットもの、という点だったのだけど、途中からそこに注目するのを忘れ、物語の厚みに惹かれた。ヒッチコックの中でもかなり好きなほうかもしれない。
 
 
ハーバードの学生2人が、男(同級生?)をロープで殺す。動機はなく、ただ完全犯罪を成し遂げたい欲望から。死体をチェストに隠し、その上にクロスを敷いて犯行のあった部屋ですぐにパーティーが始まる。招かれるのは殺した男の父親、恋人、恋人の元彼など。完全犯罪の達成を信じて疑わない2人は、その異様な状況すら楽しんでいるのだ。やがて彼らの恩師である教授が登場し、彼らの言動に不審さを嗅ぎ取る…。
 
 
ニーチェの超人思想が下敷きになっており、教授はそれを2人に教え、パーティーの場でも集まった客たちに説く。2人はその教えの歪んだ実践者で、世の中には法をも超越した超人が存在するのであり、すなわち自分たちは超人なのだから、殺人の事実も超越し、完全犯罪を成し遂げる、という自信に満ち溢れている…のが崩れていく。この物語は20年代、実際にあったローブ&レオポルド事件を戯曲化したパトリック・ハミルトン「Rope end」の映画化で、犯人たちも超人思想に傾倒していたが、浅はかなことにあっさり逮捕された。
 
 
映画としては、戯曲の映画化、ということで、ヒッチコックのセット好き・ロケ嫌いがふんだんに活かされており、マンハッタンの眺めの良いアパートの上階、3部屋ほどの住居が舞台。カメラはその中を移動する。当時の撮影の制限上、つまりフィルム撮影の上限時間が10分程度でどうしてもそれ以上の長さを続けては撮ることができないことから、80分ほどの物語、長回しショットを何本か繋げてワンシーン・ワンショットふうに仕立てている。そのシーンの繋ぎを「今だ!」と宝探しするのも楽しく、カメラが背中にぶつかった風(スーツのジャケットの濃色)のショットで繋ぐパターンは、何回か発見した。「ヴィクトリア」のような映画が生まれるのも、手持ちカメラでデジタルで撮る時代になったからだね…と、ヒッチコックの試行錯誤が楽しい。
 
 
 
セットも良くて、サンルームのように窓面が多い部屋の、窓の外のマンハッタンの風景が、犯行時刻の夕方から、80分の時間の経過につれて日暮れ、夜に色を変えていく。これもセットだから窓の外も書き割りなのだけど、書き割りならではの色使いがいかにも古い映画の色で素晴らしい。最後のシーンの色彩のかっこいいこと!死体の入ったチェストを、家事手伝いのように働く老婦人が開けそうで開けないシーンのカメラの位置も絶妙!
 
 
そしてキャスティング。その後、ヒッチコック映画常連になるジェームズ・スチュアートとの初タッグとのことだけど、この映画にはジェームズ・スチュアートより似合う俳優がいたのではないか…と思ったのは、本当はもうちょっと妖しい物語で、ジェームズ・スチュワートでは色気が足りないのでは…と思っていたのだけど、実在した2人は同性愛関係にあり、さらに教授とも関係があった説があるらしく、戯曲もそれを忠実に表現していた(お互いを my dearと呼び合うセリフもあるらしい)けれど、映画化にあたってその表現は当時不可能ながら、オファーした何人かの俳優が戯曲のイメージから断り、最終的にジェームズ・スチュワートに落ち着いたとのこと。なるほど!
 
 
さらにさらに、この事件はその後、何度も映画化されていて「強迫/ロープ殺人事件」では、教授役をオーソン・ウェルズが演じているらしい。観たい…!ヒッチコックの中では実験的映画と捉えられているらしく評価は必ずしも高くないらしいのだけど、私は、短いのにずいぶん見どころの多い映画だったな…と大満足した。単にワンシーン・ワンショットものに弱いのかもしれない。
 
 
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写真はずいぶん前になったけど、1ヶ月だけ住んだ部屋から見えた景色。この後もっと街中(3区)に引っ越した。週末は遠くの街の友達に安否確認メールを送ることから始まった。11区に住む友達は、銃撃直後の時間、仕事場から自宅に戻るべく歩いていて、アパルトマンのドアを開ける直前に電話で知ったらしい。銃撃のあった場所数カ所を線で結んだ中心あたりに友達の家があって、google mapとリベラシオンのTwitterで見つけた地図を照合させると、どの場所にも200mほどの近さでゾッとした。朝からずっと胸が痛んでる。