新宿で。ヒッチコック「マーニー」を観る。1964年の映画。
長らく観たいと思っていたのは、ヒッチコックと主演のティッピ・へドレンの間の酷いエピソードが漏れ伝わってきたから。それまでのミューズだったグレース・ケリーが結婚し、王妃になるために映画界を去ってしまって失意を抱いたヒッチコックは、演技経験のないモデル、ティッピ・へドレンを「鳥」のヒロインに抜擢し、監督の異常な愛情と呼ぶべき異様な行動に出る。監督と女優の関係以上の関係をティッピ・へドレンに迫り拒否されると、機械じかけの鳥を使う予定だったのが本物の鳥を使うように変更し、鳥にティッピ・へドレンを襲うようにけしかける。床に縛られたまま、鳥に突つかれ、顔に傷を負い錯乱状態に陥るあの演技は、演技じゃなかったってことなのか。バード・ハラスメント。怖すぎる。
しかし、ヒッチコックがそれだけ執着するだけあって、ティッピ・へドレン、かなりの美女。ヒッチコックの女優たちの中で、私は一番好き。パリス・ヒルトンを最大限に上品にしました。という顔立ちに見える瞬間もある。モデル出身だからか、本人の資質なのか、歩き方も仕草も麗しい。衣裳も何でも似合う。
そんないわくつきのヒッチコック×ティッピ・へドレンの2作目「マーニー」は、過去のトラウマから男性に恐怖心を抱き、淡々と盗みを働く人格障害気味の女の物語。
トラウマにより異常行動に至る演技が真に迫って見えるのは、 ヒッチコックの酷いハラスメントを知ってしまってるからかしらね。当時の心理状態が役柄にぴたっとはまったということなのか、ティッピ・へドレン、綺麗なだけの女優さんではない。そして乗馬用の出で立ちが、ラルフローレンのモデルみたいだった。こんな将来有望を匂わせる女優さんなのに当時、マネジメント権もヒッチコックにあったらしく、のびのびいろんな役柄を試してキャリアを伸ばす、ということも制限されていたと何かで読んだ。恐ろしい男・・鬼畜やで。この2人の確執については、アメリカで映像作品化されており、シエナ・ミラーがティッピ・へドレンを演じたとのこと。公開にあたり、ティッピ・へドレンが過去のエピソードを暴露したことも話題を振りまいたらしい。
物語の中でティッピ・へドレンのトラウマと罪を全部受け止め、過去を清算させるべく尽力するショーン・コネリーのしみじみとした愛の深さが、映画と、映画にまつわるドロドロしたエピソードの一服の清涼剤。
そしてポランスキー「反撥」を観た時、物語よりカトリーヌ・ドヌーヴの冷たく整った顔が一番怖い。って思ったけど、ティッピ・へドレンも然り。「鳥」「マーニー」が良作なのは、ティッピ・へドレンの冷たい美貌によるところも、きっと大きい。