CINEMA STUDIO28

2014-12-23

Map to the stars



11月の終わり、東京フィルメックスのクロージングで。 一足先にデヴィッド・クローネンバーグ「マップ・トゥ・ザ・スターズ」を観た。幼少期にテレビで「ザ・フライ」を、思春期に映画館で「クラッシュ」を観てから、去年「コズモポリス」を観るまで、長い間クローネンバーグを通過してこなかったことを少し悔やんでいる。


常軌を逸した表情でHollywood walk of fameに膝をつくミア・ワシコフスカのスチルを観た瞬間、観ることを決めた。「イノセント・ガーデン」に「嗤う分身」、ダークで不条理な物語に今これほど似合う女優もいないし、クローネンバーグの画面にもきっとぴったり。という予想は的中し、火傷跡を隠すべくレザーの長手袋を常に外さず、途中から登場し物語を掻き乱す彼女をフィルメックスの熱心な観客と一緒に眺められる至福の時間だった。


意外なことにクローネンバーグが初めてアメリカで撮った映画とのこと。「コズモポリス」はNYが舞台だったけど別の場所で撮ったのね。ハリウッドに近づかず、興味もなさそうなクローネンバーグが、ハエ男の変化を眺めるような冷徹さで撮るハリウッド・ゴシック。映画の都で創られるものはどれだけリアリティがあろうと人工物なのだし、スクリーンに美しくおさまるサイズに身も心も矯正・修正し、最適化する頃にはずいぶん歪みの多い存在になってしまうけれども、それでもスクリーンにしがみつくのは映画愛なのか自己愛なのか、もう後戻りはできない人々ばかり出てきた。ジュリアン・ムーアが絶賛されカンヌで女優賞も獲ったとのこと。確かにあれを演じられる女優はとても少ないだろう。


ちょっとした会話の相手ですら選ぶ言葉や表情など生理的に是か否か、ということを無意識に判断しているはずで、2時間静かに暗闇で光を眺め続けるのが映画を観ることなのだから、どれだけ脚本が完璧でもキャストが魅力的でも、映画監督の吐き出すものが生理的に是か否か。というのは大きな問題なのではないか、とクローネンバーグ映画を観ると思う。背徳的な色気に満ちていてクローネンバーグ、大好き。と、「クラッシュ」を観た時から気づいていたのに、「コズモポリス」まで何故それを忘れていたのか、不思議。そういった自分に長い間、間違った形で蓋をしていた気もしている。


ミア・ワシコフスカがマントラのように唱えるポール・エリュアールの詩「liberty」、言葉の響きが美しく、いつまでも聴いていたい。と思ったら最後も詩の暗唱で終わり、エンドロールの間、音楽も耳に届かず詩だけが耳に残った。




この冬は「インターステラー」「マップ・トゥ・ザ・スターズ」と「星」にまつわる映画を観られて幸せ。この2つを両方気に入る人は少ないかもしれないけれど…。


確か「ザ・フライ」は土曜映画劇場のような地上波・ゴールデンタイムに、家族と一緒に観た記憶がある。しばらく蝿を見かけると怯えた。今振り返ると、お茶の間で小さい頃、家族と一緒にクローネンバーグを観たなんて、その光景、クローネンバーグ映画みたい。

12/20から公開中