京都で。到着後、思わぬ暑さにむせ返りつつぶらぶらし、夕方まで時間を潰すべく、街の中心にいるのだし、本屋や展示はGWにたくさん行ったので、映画を観るのがいいかな…最近東京でもあまり映画館にも行けていなかったし、と、その場で調べてみて、時間もちょうど良かった文化博物館のフィルムシアターへ。馴染みの映画館はたくさんあれど、これまで通った回数で言えばこのフィルムシアターが1位なのではないかしら。アクセスも便利で料金も安く、学生時代はずっと友の会の会員だった。
映画日本百景「東京の変遷」という特集。この特集は取り上げる地方や街を変えて続くシリーズものとのこと。偶然にも東京だった。さっき東京を出て京都に着いたばかりなのだけども。
http://www.bunpaku.or.jp/exhi_film/schedule/
私が観たのは五所平之助監督の1947年の映画「今ひとたびの」。高峰三枝子主演、男女の長きにわたる関係…成就しそうですれ違う、第三者から見ると焦ったくてしょうがない系の物語。
40年代の映画だから、お互い気持ちはあるのは明白でも相手に触れるまで幾星霜。身分違いの恋を気持ちで乗り越えるも、不穏な政情に阻まれ、思想統制により投獄、妥協して結婚した相手は発狂して死に至り、いよいよ結ばれるかと思えば届く赤紙…。ただのメロメロなドラマかと想像していたら予想外にハードコアなジェットコースター的展開で、すんなり男女の仲が成就するなんて、ひたひたと戦争の香りのするこの時代には難しいことだったのかな。
目まぐるしい展開をひっそりと見守る東京の景色。先月観た60年代の「河口」では、銀座の繁華街など馴染みの風景の、変わったところ、変わらないところを発見するのがいちいち楽しかったけど「今ひとたびの」はどっしりと重厚な文化財建築が多く登場し、当時も今も変わらない東京がロケ地に選ばれていた。明治神宮外苑の絵画館、東大安田講堂、湯島のニコライ堂。演劇が上映されるのはクラシカルなホールは帝国ホテル?召集前の最後の時間を惜しみ過ごすのは、ニコライ堂の階段だろうか。惹かれあったのは若き日ながら二人はもう落ち着いた大人の年齢に達しており、女はサンドウィッチやコーヒーを準備し、煙草やウィスキーを餞別に持たせ、永く夢見ながら果たせなかった夫婦のような時間を家の中ではなく外、東京の街を舞台にして、階段に腰かけて実現しようとする。年季の入ったバチバチ音まじりで観る物語のうち、ほんの数分の儚い時間が尊く美しく見えた。
高峰三枝子、フリフリの衣装を着て演劇に興じている時はギョッとして最後まで映画を見届けられるか自信喪失しそうだったけど、酒場のマダムのしっとりした着物姿でようやく役柄と本人のルックスのピントが合った。男女一組が中心にいる物語だと、女性のほうを観てしまいがちながら、この映画は龍崎一郎のほうをしっかり観ていたように思う。どっしりした顔立ちゆえか、学生服の似合わないこと。しかし秘めた恋情に苦しみながら、理想主義に燃える医師という役柄にはルックスが似合っており、時間が経過するにつれ役柄に見た目が馴染んでいった。
映画についてはこちらに詳しく。
http://kinema-shashinkan.jp/cinema/detail/-/1_0326?PHPSESSID=6ddnd96lfc8f1elvdulnbhgsu2
御茶ノ水界隈は東京でも好きな一帯。「今ひとたびの」についても書かれているこの本、気になってメモしていたけど、読み時が到来したか。
https://www.meiji.ac.jp/press/list/libertybooks/li_11_nakamura.html