CINEMA STUDIO28

2016-09-09

Carol



重陽の節句生まれだから陽子さん、という友達がいる。生まれた日や季節に因んだ名前、美しいな。



間に合う時間までに仕事が終われば行くことに決めていた、ギンレイホールでの「キャロル」、奇跡的に終わったので飯田橋に向かうと、金曜夜とはいえ、平日夜に意外なほどの行列だった。


公開時に一度観て、その後原作も読み、すっかり堪能した「キャロル」だけれど、映画の2度目もまた素晴らしかった。物語はしっかり把握しているので、衣装や音楽、ふたりの表情、細部を眺め、どれもどれも見事。


テレーズは自分の道を見つける途上にある若い女性で、質素な部屋、質素な身なり、身の丈にあった暮らしは、着飾るより却って彼女を際立たせていた。彼女なりに着飾った時より、部屋で作業をしている時の、黒のトップスにデニム、チェックのシャツにデニム、ソックスにスニーカーという装いに目を奪われた。デニムが作業着だった時代の、ストレッチなど無縁なぶかっとしたシルエットに華奢な身体が泳ぐ。





一方、総てを手に入れながらも、そんな自分がしっくりこないキャロルは、彼女の身分に似合った隙のない装いながら、ホテルの電話ボックスで焦って電話をかける時、大きなイヤリングを外したのか、受話器を下ろし、イヤリングをつけ直す仕草に不意に気づいて、何故か印象に残った。あの大きさのイヤリングでは受話器にうまく耳をつけられない。ということに加えて、隙のない彼女が一瞬見せた隙だったからかもしれない。


初見では、ラストシーンが唐突で説明不足のように思えたけれど、視線で始まった物語が、再び視線で終わったことを理解し、満足。丁寧につくられたお酒をほんのひと口飲んだ後のような余韻。


http://carol-movie.com/