CINEMA STUDIO28

2016-09-11

The seven year itch



マリリン・モンロー、ようこそ我が部屋へ!明るいマリリンを観たくなったので久しぶりに「七年目の浮気」を再見。


NYに住む編集者が、妻子がヴァカンスに出かけ、自由の身を謳歌する。上階にマリリンが短期滞在しており、心の羽根を伸ばす男は、マリリンとの情事を妄想し…。結婚生活も七年目に入るとムズムズするよね、という物語。




久々の独身気分を味わってる中、こんな若き娘が登場したら矢も楯もたまらず…私も妄想が過ぎるほうなので、わかる、わかるよ…と男の肩にポンと手を置きたくなるもの。




マリリンにばかり心奪われがちだけど、相手役のトム・イーウェルに今日初めて意識が向き、男性目線で語られる物語で、登場時間の長さからもトム・イーウェルこそ主役。いかにも!なハンサム俳優なら、普通の男の巨大な妄想という物語にうまくはまらなかったはずで、トム・イーウェルのキャスティング、ぴったり。


DVDで観たので映像特典をチェックしてみると、制作にまつわる30分ほどのドキュメンタリーが収録され、この映画がいかに当時のハリウッドの検閲と闘ったかという興味深い内容だった。55年公開、制作は54年。「ティファニーで朝食を」よりまだ5年前の話。もともとはブロードウェイの舞台版「七年目の浮気」が先にあり、そちらはもっとあからさまに不倫を描く物語だったのが、映画化にあたっては当時の映画検閲基準ヘイズ・コードに抵触するという理由で脚本は大幅にカットを余儀なくされ、最終的には不倫は描かれず、あくまで不倫願望のある男の妄想に留まったという経緯があるらしい。ヘイズ・コードに加えカトリック教会も目を光らせており、教会が気に入らなければカトリック教徒を観客として取り込めないこともあって、ダブルのしめつけにビリー・ワイルダーも製作陣も憤慨しながらも従わざるを得なかった、ということらしい。


そのため本来撮るはずだった物語ではなくなったけど、マリリンの魅力がそんな経緯を凌駕するもので、興行は成功し、マリリンは大女優の仲間入り。ただし有名な地下鉄の風でスカートがめくれるシーンの撮影を目にした当時の夫ジョー・ディマジオが大激怒し、撮影中に離婚に至ったというスキャンダラスな話題も映画の興行を後押ししたという皮肉さ。スクリーンテストの写真を幾つか目にしたけど、映画の朗らかさからは想像もつかない情緒不安定な表情を浮かべるマリリンがいて、いたたまれない気持ちになった。


ドキュメンタリーにはビリー・ワイルダーのインタビューも短いながら収録され、動くビリー・ワイルダー、初めて見たかもしれない。マリリンの演技について「それはもう…さんざん苦労させられた。なだめすかして、セリフを引き出して…だが編集してみると、まったく自然だ。彼女の魅力だけがスクリーンに残った」と答えている。


キャメロン・クロウがビリー・ワイルダーにインタビューした分厚い本を所有しているのだけど、その中でも何度か、マリリンの演出に手こずったエピソードは登場する。鬱状態のため集中力が極端になく、セリフを忘れ、ただし何十回とテイクを繰り返すうちに奇跡のように、他の誰にも演じられないような素晴らしい演技が生まれるのだ、と。出来上がった映画は、いわば奇跡の連続で、だからマリリンから目が離せなくなるのだろう。





撮影中、エリオット・アーウィットが撮ったというこのマリリンの可愛さよ!有名な衣装ももちろんながら、一瞬だけ映る、膝上丈のワンピース型のコットンのパジャマ姿、マリリンのイノセンスの結晶みたい。