CINEMA STUDIO28

2015-12-27

恋人

 
 
大掃除に手をつけるのが面倒でグズグズしており、昨夜眠る前に市川崑「恋人」を観るなど現実逃避。1951年、池部良、久慈あさみ主演。明日、他の男と結婚する幼馴染と最後のデート。筋書きを読んでから長らく観たくて、しかしタイトルの記憶があやふやで、神保町シアターにかかった!と、勢いよく観に行ったら、あれ…これ違う気がする…それは「愛人」というタイトルの市川崑の別の映画だった。三國連太郎や有馬稲子が出ており、三國に翻弄された女たちが揃ってシクシク泣いて終わる…という映画だった。市川崑…ややこしいんじゃあ(ちゃぶ台ひっくり返し)と、その後「恋人」を無事観たかどうかまたも記憶が曖昧だったのだけど、今回、途中まで観てみて気がついた。観たことあったね、これ…。
 
 
2人が東京をあちこち移動してデートするので、「最高殊勲夫人」より何年か前の東京がしっかり映ってる。小田急新宿駅の最終電車は当時すでにけっこう遅い時間まであるし、帰れない2人がグズグズする新宿のガード下(地下?)と思われる場所は、地名表記がローマ字で、市川崑映画らしい構図のシャープさもあいまって、そこだけ切り取ると西洋映画みたい。書いてあるのはSAGAMIONO…相模大野…とかなんだけども。久慈あさみが駆けていく深夜の新宿は、古い映画特有の靄のかかったような画面もあいまって蜃気楼のようだった。
 
 
物語はというと、お嫁さんになってしまう前にさらってほしい久慈あさみと、煮えきらず踏み込めない池部良、久慈あさみにさほど魅力を感じないので、他の女優で観たかったな、など意地悪なことも思いつつ、心は別に残したまま、しかし親が決めたのか何なのか、結婚という制度には否応なしに乗らなければならない1951年の女性のことを思うと、「恋人」というシンプルなタイトルが後からじわじわ染みてくる。そして「最高殊勲夫人」ではビールを何本飲むとキスする、何本飲むとホテルに誘うって台詞があったのだけど、「恋人」は腕を組む程度で、50〜60年代の映画を観ると時々考える、結婚前の男女の「接吻なんてとんでもない」から「婚前旅行も当然です」に移行したのって何時からなのかしらね。という問題(というより私の興味関心)について今回も考えた。
 
 
若尾文子映画祭アンコール上映が終われば、市川崑映画祭が始まるけど、「恋人」も「愛人」も上映はないらしい。