術後静養モードに飽き、朝からシネスイッチ銀座へ。「裸足の季節(原題: Mustang)」初日。上映後、監督と出演者たちの舞台挨拶があった。という話は後日にして、階段を降りて地下1階でもぎってもらうと、もう1つ下が入口です、と案内されたので、あれ、地下2階まであるんだっけ、と降りてみた。シネスイッチ銀座の一番大きなスクリーン(だと思う)は今時2階席がある。地下2階、地下1階に2階分の座席が埋め込まれているのだ。前に来た時はゴダールの3Dで、あの時は3階だったのだっけ。縦に長い構造が面白い。
シネスイッチに来ると、反射的に片桐はいりさんを思い出す。映画館のもぎりアルバイトの思い出を書いたエッセイ集「もぎりよ今夜も有難う」の舞台となる「銀座文化」がかつてあった場所こそ、現在のシネスイッチ銀座だから。
帰宅して夜、NHKで「トットてれび」を観ていると、今日はトットちゃんと渥美清さんの思い出の回。 2人がお正月に映画館で待ち合わせ「男はつらいよ」を並んで観る場面があった。その映画館でもぎり役を演じているのが…片桐はいりさんだった…!「もぎりよ今夜も有難う」に、寅さんについてのエッセイがあったような…と探してみると、あった。時期によっては暇でたっぷり休み時間をもらえたもぎりバイトも、お正月興行は話が別で「男はつらいよ」の人気っぷり、2本立て興行でも「男はつらいよ」の回が際立って混雑し、もぎりもてんてこまいというエピソード。そして映画が始まり、扉が閉められると…
「どーん。ずーん。どよよよよ。地響きのようなくぐもった音。劇場の鼓動?いや黒山のお客さんの笑い声である。このどよめきが度を越すと、爆風となって映画館の重い扉を押し開けた。人いきれで沸騰した場内に笑いが起こるたび、扉が、ばふん、ばふん、と開いては閉じる。まるで生き物のようだった。劇場が巨大な怪獣みたいに、たくましく躍動しているように見えた。」
今日の「トットてれび」はトットちゃんと渥美さんの思い出と、片桐はいりさんの映画館もぎりの思い出のハイブリッドだったのだ。なんと芸の細かい脚本…。「映画館が呼吸するのを見たことがある」の書き出しから名文のこの「Wの喜劇」というエッセイの映像化を、その場所の跡地に行った夜に観られたシンクロニシティに、ほくほくした気分でいる。