CINEMA STUDIO28

2016-06-22

Hollywood banker

 
 
週末、EUフィルムデーズで観たオランダからの1本。「ハリウッドがひれ伏した銀行マン」(Hollywood banker / Dir. Rosemyn Afman)。7月公開されるらしく、先行上映。
 
 
 
 
オランダの銀行員フランズ・アフマンは偶然、ディーノ・デ・ラウレンティス(映画プロデューサー)に出会い、資金調達に苦しむインディーズ映画界に新たな融資の仕組みを導入する。プリセール(事前販売)とは脚本が完成した段階で融資を持ちかけ、製作費を調達。映画が当たればリターンがあり、製作が頓挫しても映画保証会社から保険金が支払われる…だったっけな。プリセールで900本もの映画製作をサポート。「ダンス・ウィズ・ウルヴス」などオスカー受賞作も含まれ、「プラトーン」製作においては「ジャングルに金を運んだ男」と呼ばれた…けど実際にジャングルには行ってないらしい。
 
 
プリセールの初期段階で、地方の普通の銀行員だったフランズ・アフマンが、権限の上限を超えて融資を行い、本社に呼び出され、しかし映画ビジネスの可能性に目をつけた銀行はフランズを応援し、やがてその銀行はフランスのクレディ・リヨネ(LCL!懐かしいことに、かつてクレディ・リヨネに口座持ってたわ…いきなり親近感)に買収された際、正式にクリエイティブに融資する部門として認められたという経緯、いい話だわ。ハリウッドの有名プロデューサーや俳優たちがルクセンブルグにいるフランズに会うべく列をなしていたと初めて知る。映画の世界に足を踏み入れるきっかけをつくったディーノ・デ・ラウレンティス(古くは「にがい米」やフェリー二「道」、後年は「ハンニバル」等の名プロデューサー)に専属スタッフにならないかと持ちかけられ、断った…というのは、フランズのきっちり、コンサバティブな印象から驚かなかったけど、断ったからディーノ以外のプロデューサーや監督たちにも製作支援を受ける道が開かれ、生まれた映画がたくさんあるのだろう。
 
 
フランズ・アフマン、どの場面でもきっちりスーツを着ていて、写真に一緒に映る俳優や監督たちのカジュアルで破天荒な表情と好対照。奥さんと寝る時もスーツを脱がないのでは?と口の悪い業界人たちにイジられながら、最後まで自分はただの銀行員ですから…という姿勢を崩さなかった人なのかな、佇まいに品性が感じられて、ハリウッドに彼のような人がいてくれて良かったね…と思った。
 
 
フィクションなら「プラトーン」大ヒット!手がけた映画でオスカー合計何十個受賞、晩年は家族と穏やかに暮らしましたとさ、と映画が閉じるところ、ドキュメンタリーだから、突然降って湧いた怪しいイタリア男に周囲との信頼関係を崩され、派手に梯子を外されて翻弄される。現実ってフィクションより遥かに容赦ないな、と思う。
 
 
この映画はフランズ・アフマンの娘が監督。父親の余命を知った娘が、偉業を記録すべくかつての仕事仲間たちにインタビューする構成。語られるフランズ・アフマン像が品行方正で実直なのは、娘がインタビューしてるから、というのもあるのではないか。パパが余命いくばくもない、ドキュメンタリーとして記録したい、と娘にお願いされて、あいつは影では弾けたやつだったよ!大きな声では言えないがね!って言える人はきっといない。…と、少し斜めから観てしまったのは、「FAKE」を観た後だからかな。ふてぶてしい森達也の欠片が少し乗り移ってしまったわ…。
 
 
上映後、ゲストとして東宝取締役で東宝東和会長の松岡宏泰さん(松岡修造のお兄さん!)が登壇され、仕事で親交のあったフランズ・アフマンの思い出を語られた。松岡さん、背が高く清潔で、ハリウッド・クラシックに登場しそうな少し日本人離れした印象の方で、フランズとの出会いはアメリカに渡った若き松岡青年が、ICM(エージェント会社)でメールボーイをやっていた時…ってそこ、もっと詳しく掘り下げて!裕福な育ちの松岡兄弟、兄はアメリカへ、弟はテニスの道を…そのままハリウッド・クラシックになりそう…と妄想しているうちに、トークは終わった。その際の様子はこちらに。
 
 
 
 
映画を観ていて思ったのは、フランズ・アフマンは何故、映画に関わることに違和感を覚えず、長く関わりを続けられたのか、映画好きだったのか?という点がほとんど語られない。その点について松岡さんは「真面目な人だから、目の前にある仕事を一生懸命やる、映画が目の前にきたから、一生懸命それをやった、ということなのかな」との推測。映画業界の裏側を描いており、業界人だけではなく、映画ファンにも自身の仕事を知ってもらえたら、フランズとしてはこんなに嬉しいことはないと思う、と最後におっしゃっていた。