「永い言い訳」のパンフレット、DVDが付属する豪華さに加え、冊子部分も薄いながら内容が濃く、デザインも美しい。西川監督が今回初めてつけたという監督助手の書いたプロダクション・ノートが読むメイキングの役割を果たしており、2013年、監督が小説を書くことから今年4月初号試写まで、1本の映画が出来上がるまでの永い道程が淡々と綴られている。
銀座のapple storeであった西川監督とプロデューサー2名のトークイベントにも9月に行ったのだけど(質疑応答で不愉快な質問があって記憶が薄れていたけど、それ以外は充実の内容だった)、監督助手を初めてつけることについて、監督が一度OKを出したものに、監督助手が「あれはちょっと…」と意見を言う。意見を聞いて撮り直しをすると監督としてのリーダーシップが揺らぐことになるけれど、リーダーシップが揺らぐことよりも、映画のためになるかどうかを優先した、とおっしゃっていたのが印象的だった。
プロデューサーが隣にいることもあり、西川監督の印象は雇われ女社長と呼ぶのがしっくりくるような、大勢を統率するけれど、自分が完全にトップではない立ち位置の、しかし1日に何十、何百の細かい意思決定を重ねる人特有の凛とした強さもあって、素敵な女性だな、と思った。物を書く人というのは、「永い言い訳」の幸夫くんのように、どこかしら未成熟な部分をそのままに温存し、まるで自分だけが選ばれ獲得したかのごとくそれを宝物のように扱う、うじうじした自我を抱え続けている人々だと思っているのだけど、西川美和という女性は小説家としての自分と、監督としての自分をどのように1つの身体の中に同居させているのだろう。書かれたものや、撮られたものに触れる度にわからなくなる。