CINEMA STUDIO28

2016-10-09

紀子



6割ぐらいの集中力で、何年かぶりに小津の「晩春」を観ていたら、時折、集中がぐっと遠のいて音しか身体に届かない数分があり、音だけで眺める「晩春」はほとんどホラーの手触りだった。嫁ぐ日の原節子の暗い顔に覆い被さる不穏な音。「東京物語」や「麦秋」と違って、「晩春」になかなか手が伸びず、小津映画の中でも観た回数が少ないのは、ホラーを観る前のようなちょっとした心の準備を要求されるからだろうか。


紀子史上最も複雑な紀子を、原節子が完璧に演じていて、どういう演出をすれば、あんな紀子を存在させられるのか興味が湧く。