週末、早稲田松竹で観た「ツィゴイネルワイゼン」、人生何度目だったのだろうか。初めて観たのは10代の頃で、さっぱりわからなかったけど、さっぱりわからなくても、映像刺激が強くて目が離せず、最後までドキドキしながら観たことが大きな体験で、物語を理解する、共感することは、映画を観ることのあくまで一部であって、それがなくても映画を楽しむことはできると思い知った、事件のような鑑賞だった。
大正浪漫三部作、「夢二」は私の中でやや弱くて、「ツィゴイネルワイゼン」か「陽炎座」かでは、「陽炎座」が優位だったのだけど、何年か前…あれはパリで観たのだっけ…両方を久しぶりに観た時、初めて「ツィゴイネルワイゼン」が優位に立った気がしたのは、スクリーンで何度も観ていることもあって物語を把握しつつあったことと(「陽炎座」はまだ半分も掴めていないと思う)、原田芳雄の骨フェチっぷりに感情移入したからかしら。日本最高の骨フェチ映画だと思う。
異性の好みは人の数だけ違うものだけど、極まれに好みの壁をなぎ倒していく強い存在はいるもので、「愛のコリーダ」の吉藏などは最たる例だと思うのだけど、「ツィゴイネルワイゼン」の原田芳雄も案外そうかもしれない。男の獣性だけ抽出して人の形にしたような男。髪や髭で覆われて、目鼻が埋もれてるのもまた良し。登場する女たちが皆、次々と原田芳雄の手に落ちていくのを、わかるわぁ。と眺める映画。
原田芳雄は物語から退場した後も、見えぬところで物語に参加し続け、取り憑かれたように夢と現を行き来する大谷直子の背骨を抜かれたような佇まい。人はあんなふうに立つことができるのだな。主演4人、それぞれに素晴らしくて、観るたびにそれまで気づかなかった魅力を発見できるのも、楽しみなところ。