フランス映画祭1本目。「La Famille Belier」、主演女優はセザール賞、リュミエール賞で最優秀新人女優賞を撮り、フランスで700万人動員の驚異の大ヒットとのこと。
フランスの田舎町で農業を営む一家。主人公は高校に通う長女・ポーラ。自分以外の家族みんな聴覚障害者。学校の授業でコーラスを選択することになり、ポーラの歌声を聴いた音楽教師が、パリでオーディションを受けることを勧める…という物語。
オープニングセレモニーとオープニング上映はセットなので、セレモニーを観て映画祭気分を味わいたいだけの理由で毎年、上映も観ているのだけど、去年はやや大味な映画だったので今年はどうしようかな…と思いつつ、チケット買ってみたらこれが良かった。聴覚障害の家庭の描き方がステレオタイプではなく、家族みんなキャラが立ってて政治ネタなどさりげなく盛り込み笑いもとりつつ、とてもナチュラル。思春期の少女が成長するだけではなく、彼女の決断によって家族みんなが成長する展開、爽やかだけどベタすぎない。主演女優ルアンヌ・エメラはオーディション番組に準優勝した歌手で、女優としてはこれが第1作なのだとか。彼女の歌声も映画の魅力の大きな要素だけど、ここが聴かせどころ!という場面で思い切った無音の演出があって、ああヌーベルヴァーグの国だなぁ…と感慨しきり。音楽に明るくない私は、物語のクライマックスが音楽や歌の場面にある映画が苦手なのだけど、この映画のクライマックスの歌の場面は最高。そこに至るまでの展開で歌にクライマックスを担わせる必然を感じられたのと、あの歌を聴くためにまた観たい、と思うぐらいルアンヌ・エメラの歌が素晴らしかった。
上映後のQ&Aは監督と主演のルアンヌ・エメラ!オーディションでの出来は何度やっても最悪だったのに、監督が感じた一瞬の煌めきを信じての起用だったとのこと。器用に演技する人にはない、不安定ながらも煌めいた時の爆発力が強い、確かにそんな演技だった。ロアンヌが会場に、この中に聴覚障害をお持ちの方はいらっしゃいますか?フランスの手話は日本でそのまま通じるのでしょうか?と問いかけたら、お一人、男性が立ち上がって手話で、映画の中の手話は完璧に解った。とっても感動した!と壇上の2人に伝え、監督とルアンヌ・エメラが思わず手話で返事する、という素晴らしいやりとりがあった。フランスで公開された時、手話は国境を越えて共通の部分が多く、差異があったとしてもすぐ覚えあえると教えてもらって、例えば僕が日本語を勉強しようとしても習得までに時間がかかるけど、手話だとすぐにコミュニケーションがとれるのですね、と監督が感激しながらおっしゃっていた。
日本公開は10月31日から。邦題は「エール!」とのこと。