CINEMA STUDIO28

2016-02-09

Cinema studio28 award 2015 / Best actors

2015年、映画ベスト。各賞。まずは男優賞。
 
 
・ハーバート・マーシャル 「天使」「極楽特急」
 
シネマヴェーラ、ルビッチ特集よりハーバート・マーシャル!今回、何度目かの「天使」を観て、ディートリッヒを囲む2人の男、メルヴィン・ダグラス(写真右)、ハーバート・マーシャル(写真左)。いっけん、メルヴィン・ダグラスのほうがエレガントに見えるのだけど、それは彼がエレガントに見える演技をしているためで、作為の見えないハーバート・マーシャルこそエレガントな男なのではないか。と、その魅力に開眼したのであった。「極楽特急」を何度も観たのは、三角関係の中心にいて、だから出演時間がより長いハーバート・マーシャルを堪能するためなのであった。
 
声、表情、着こなし、立居振舞い。どれも静かに流れるようで、際立った特徴はないけど、ふと、ああ、あの人は優雅だった。と、うっとり振り返るようなさりげなさ。そして調べて知ったことには、ハーバート・マーシャルは第一次世界大戦で負傷して片足が義足だったとのこと。考えてみればルビッチはドイツからハリウッドに渡った人で、「生きるべきか死ぬべきか」はもちろん、「極楽特急」でもさりげなくナチス批判を織り交ぜ…(アドルフ!っていうセリフが唐突にあって驚く)、そして「極楽特急」と同じ年にルビッチにしては珍しいほどストレートに戦争の哀しみを描くシリアス劇「私の殺した男」を監督していたりもして、ルビッチ・タッチの裏には戦争に反対する唯一の手段は、の言葉を想像させるような意思も感じもするのだ。戦争の影を身体に抱えながら、微塵もそれを感じさせず、すっと立つハーバート・マーシャルこそ、ルビッチ・タッチの体現者と言える…かもしれない。
 
これにより?好きな俳優、オールタイムBest3は、ハーバート・マーシャル、川口浩、フレッド・アステアに決定。誰にも伝わらなさそうだけど、3人には私にしかわからなさそうな強い共通項があり、ちゃんと本能で選ぶと、好みってぶれないものですね。と、しみじみしておる。
 
「極楽特急」の撮影休憩中。セットの隅でお茶を飲む姿すらエレガント…
 
 
 
・イーサン・ホーク 「Born to be blue」
 
誰もが黄色い声をあげるようなアイドル的存在にキャーキャー言った記憶がさっぱりない私が、イーサン・ホークをbest actorに選ぶ日が来るなんて、月日とは不思議なものだわ。東京国際映画祭で観た「Born to be blue」は、チェット・ベイカーの人生の一部分を映画化したもの。「ビフォア・ミッドナイト」や「6歳のボクが、大人になるまで」で比較的最近のイーサン・ホークは観ており、その時は特に何も思わなかったので、この映画の彼がとりわけ印象的だったということか。薬に溺れる試練の時期のチェット・ベイカーを演じるイーサン・ホークは、角度によってはアイドル的俳優の面影も漂わせ、しかし角度によっては年月が容赦なく加えたグロテスクさも匂わせ、相反する魅力がバチバチ混じり合い、観終わってみると、うっとりした。何に?イーサン・ホークに。としか言いようのない存在感。スクリーンの中心で何時間も視界を占領する権利のある男であった。上手いかどうか、チェットに似てるかどうかということは別として、この映画はイーサンの歌も絶品。きっと公開されると思うので、その頃また会いに行きたい。
 
 
 
・トム・ハーディ「マッドマックス 怒りのデス・ロード」
 
男優賞、最後の1人はこの方に。トム・ハーディというより、マックスという役、かもしれないけど、役と役者は不可分。何年か前「アナと雪の女王」を観に行き、堪能したのだけど、ディズニー映画って女の子に「いつか王子様が…」と夢見させるものなのではないの?よく知らんけど(ディズニーを全く通過せずに育ったので…)と衝撃も受けた。なにしろ姉は、ありのままの私になるために氷の城を自作して引きこもり、助けに向かう妹は途中出会い運命を感じた王子ふうの男に手酷く裏切られ、協力してくれる身分違いの男は体臭が酷く(ちょっとにおう♪みたいな歌あった記憶…)、大団円に達した後は身分を乗り越えいい感じになるかと思えばならず、しかし男は王室御用達業者と認定されて大喜び…良かったね!ロイヤルワラント…!…ああ、なんて厳しい物語なの、まるで現実のようだわ。ディズニーだけは「いつか王子様が…」って夢見させてくれるんじゃなかったの?家の前が小学校の通学路なので、登下校中の少年少女がのびのびと、ありのーままでーと歌うのをしょっちゅう聴いたけど、君たちこんな映画を観て、どんな大人に育つのかしらね。と勝手に心配までした。考えすぎだけども!
 
それから新しい映画を観るたびに、男、ヒーローの描かれ方について密かに注目していたのだけど「マッド・マックス 怒りのデス・ロード」、案外このマックスという男は、新しい種類の「いい男」なのではないか…と思うに至った。男根的支配に反旗を翻す女たちは最初、マックスが男というだけで警戒していたけど、徐々にあれ…こいつは…なんか違うぞ…?と気づいていく過程が細かく描かれていた。ちょっとあっち倒しに行ってくるわ、と静かに去って行き、攻撃を見事に成功させて戻ってきて、無表情で次の仕事を進めるマックスの顔、女たちはみんな見ていた。俺やったぞ!とも言わずドヤ顔もしない。褒め言葉を求めない。しかし仕事はできる。すべて失ったらしい過去も一言も語らず、そっと女たちに共感して最大限に貢献、達成に喜ぶ女たちの姿に静かに癒され、無言で去って行く。こんな人いるの…?一緒にいてとてもラクだと思う。滅多にいないから映画になるんだね…。いつか王子様が。って夢見てもしょうがないし、そんなら自分で頑張るわ。と頭を切り替えた少女たちよ、マックス、いいよ(推薦)!
 
この映画についていろいろ感想を目にしたけど、笑いながらも私が共感したのはこちら。「風邪をひいた女性にお粥を作ることで、自分も癒される男なのです。今までのアクション映画に、そんなヒーローがいたでしょうか。」
 
2015年、007のボンドガールは知的な職業に就き共に闘った。ミッション・インポッシブルでも女は強かった。けれどジェームズ・ボンドもイーサン・ハントもマックスほど新しさを感じさせる男ではなかった。トム・ハーディは脚本を読んで驚いたはず。え…台詞3つぐらいしかないやん…主役、俺やで、と。でも「マッド・マックス 怒りのデス・ロード」の主役は間違いなく、マックスなのであった。私がもし名画座であるならば「アナと雪の女王」と2本立てにするよ。