CINEMA STUDIO28

2016-02-10

Cinema studio28 award 2015 / Best actresses

2015Best、男優賞につづきまして、本日は女優賞。ドロドロドロドロドロ(ドラムロール)
 
 
 
 
 
 
・ライア・コスタ 「ヴィクトリア」
 
 
「ヴィクトリア」で、主役・ヴィクトリアを演じたライア・コスタはスペインの女優。観終わった今も、この映画について追加情報を得てはいないので、ライア・コスタで撮ることを決めてから、ヴィクトリアのキャラクターをつくったのか、ヴィクトリアのキャラクターが先にあって、それを演じられる女優を探したのか知らないけど、ライア・コスタをキャスティングできただけで、この映画の7割は成功していたのではなかろうか。冒頭の、頼りなく隙だらけのヴィクトリアに、え、こんな所在なさげな人物が主人公なのか、最後まで観られるかなぁ。と、不安に思ったことすら、まんまと術中にはまっていた。
 
 
女ひとり、振り返らず歩く場面を持つ映画は素晴らしいって、「第三の男」の昔から決まってる。

 

 
 

 

 
 
 
 
・バーバラ・スタンウィック「レディ・イヴ」
 
 
「レディ・イヴ」はスクリューボールコメディの名手、プレストン・スタージェスの映画で、さすがに名手だけあって、誰をキャスティングしてどう演出すればボールがスクリューするのか知り尽くしている。「レディ・イヴ」を観てから、もっと彼女に会いたくて他の映画も観てみたけど「レディ・イヴ」ほど魅力的ではなかった。スタージェスは、どうせコケるなら間の抜けた顔の小柄な男より、コケる音量の大きさにも期待できそうな長身で真面目顔のヘンリー・フォンダのほうが笑えるってわかってるし、そんな男の相手役には、綺麗だけど動きが鈍い女より、歩くだけでボールが弾むような、小股の切れ上がった女、ダンサー出身のバーバラ・スタンウィックこそ適役とわかってるから名手なのだ。
 
 
台詞のキレも抜群。ディナーの席でヘンリー・フォンダを狙う女たちをコンパクトの鏡に映し、化粧直しを装いながら鏡に映る一挙手一投足にツッコミを入れていく場面の台詞まわしで、私は彼女に惚れた。バーバラ、吉本新喜劇でもナイスポジションを確保しそうな、関西のボケとツッコミのリズムを生まれながらに体得するアメリカ女性である。
 
 
生まれながらに恵まれた、ということに加え、ダンスがつくった筋肉にも支えられたスリットから覗く脚、折れそうに引き締まったウェスト、バーバラのスタイルを強調する衣装も素晴らしいな、と思えば、イーディス・ヘッドのデザインだった。さすが!
 
 
 
 
・長澤まさみ「海街diary」
 
 
「海街diary」は4姉妹が、美しいのはもちろん、与えられた役割をきっちり演じられる人を揃えることに成功している映画だった。吉田秋生の原作が秀逸、ということかもしれないけど、姉妹あるある的なキャラクター設定に加え、不在の父親や母親の性格が、それぞれに少しずつ宿っているだろうことも、物語の流れで自然に理解していく。何しろ広瀬すずちゃんが眩しすぎ、その後、テレビや雑誌で見かける広瀬すずちゃんは、ちょっと大人になっており、映画の頃の彼女はもうどこにもいない。撮られるべき人が撮られるべき瞬間に、きちんと撮られた幸福を味わう映画で、広瀬すずちゃんだけじゃなく、思い返してみれば4姉妹のみんながそんなふうに撮られている。
 
 
いない人、いなくなった人に振り回されながら、4姉妹の暮らしは濃くなっていく。母親がわりでもある長女、新たに家族になった四女が、不在者の影を肩に背負って、陰りを感じさせる役割を担うのに対し、次女、三女は陽の役割を担い、閉じた家族の内側と、太陽と海の街を繋ぐ存在として描かれる。次女・長澤まさみの伸びやかな肢体が古い日本家屋で動くだけで、何十年もその場所で蓄積された埃もさっと拭われ、光が射し込む。そんな効果を期待してか、ベッドに横たわる長澤まさみの脚のショットから映画は始まる。
 
 
あの身体で立っているだけで役割十分だけど、長女との対比で描かれる次女のキャラクター、放埓な異性関係も、後に登場する母親との血の繋がりを感じさせ、次女を通して、どこかしら母親も悪者なだけではない、憎めない存在に変化していく。何度かある喪の場面での姉妹の装いがそれぞれ特徴的で、長澤まさみは気難しい親戚のおばさんに怒られそうな膝上丈のノースリーブのワンピース(正座すると黒ストッキングの膝がさらに露出する)に、儀式の際はかろうじて何か羽織っているけど行き帰りではすぐノースリーヴ姿になり、露出した肌で喪の空気を消し去っていくのだ。
 
 
 
 
 
 
ああ、長澤まさみに素晴らしく似合う役が与えられたなぁ。ロメールやジャック・ロジエのヴァカンスもののような、夏に海辺で薄着の男女がだらだら恋をするだけの映画のヒロインとか、長澤まさみが演じるの観たいなぁ。「3人のアンヌ」のような、ホン・サンス映画でもいい。
 
 
私は姉妹がいないので(兄がいる)、姉妹感覚については想像の域を出ないのだけど、この4姉妹だったら次女(長澤まさみ)と三女(夏帆)を足して割ったようなタイプかな。両親のいない家庭で、お姉ちゃんがいてくれないと困るけど、お姉ちゃんも真面目すぎて大変だねぇ・・と言いながら、ごはんの前におやつを食べ過ぎ、無断外泊して怒られる、みたいな。それもあって、長澤まさみの伸びやかさに軽く共感もしつつ、綺麗なお姉さんに見惚れる中二男子のような目つきでも見つめた。