CINEMA STUDIO28

2016-04-30

四月物語

 
 
四月って文字を目にしたり、耳にしたりするたびに、不意に肌に触れられたように細胞がざわつくのは、四月のはらむ曖昧さのためだろうか。さよならの余韻が残る中のはじめまして、冬物をしまわないうちに着はじめる薄物、咲いたそばから散っていく桜、まともに眠る時間もないまま外に出た私の都合など無関係に色づく視界。
 
 
四月のはじめ、初めてスクリーンで、フィルムで観た「四月物語」も、とらえどころのない四月が短い物語にぎゅっと閉じ込められていて、細胞がざわついた。北海道から出てきた卯月が勝手のわからない東京の郊外で分厚いニットを着ているのもいいし、同級生にからかわれて脱ぎいきなり半袖なるのもいい。少女と女の中間にあって、彼女を東京まで連れてきた秘められた感情が時折ごろっと顔を覗かせるのも良かった。書店で先輩を見つめる、あの上目遣いよ。
 
 
公開当時、日本にいなかったので、どのように公開されたのか知らず、今回、早稲田松竹でポスターを初めて見た。そしてパンフレットってどんなだったのだろう、と調べてみると意表をつくルックスだったので、完全版と思われるものを思わず古書で手に入れた。紐のついた大きな箱を開けると、
 
 
 
 
埋め込まれたブックレットと、あさがおの種。完全版、というのは、出回っている古書を見比べるうち、ほとんどのものにあさがおの種が付属していなかったから。せっかくなので、種もどんなだったのか見てみたい。付属していないものは、買った人が当時、種を蒔いて育てたのかな。
 
 
 
 
ブックレットは色違いで5冊あり、もちろん中身も全部違う。卯月が先輩を思って大切に読んだ国木田独歩「武蔵野」はもちろん、キャスト、スタッフの言葉、シナリオ、劇中映画を漫画化したもの、豪華な執筆陣が寄せた原稿。映画は1時間の中篇で、ブックレットを全部読み終わるほうが時間がかかる。あの小さな映画を、みんなが寄ってたかって盛大に愛でている様子、当時のミニシアター界隈は盛り上がっていたのだなあ。
 
 
さよなら四月、また11ヶ月後に会いましょう。