日曜夜の浅草。事のはじめはオーソン・ウェルズなどを観に行ったシネマヴェーラで、偶然このチラシを見つけたこと。阪妻が目を剥く強烈なイラスト、何ぞ?と手にとってみると、浅草東洋館の場所はかつて映画館・三友館で、映画館が一軒残らず消えた六区での映画上映を再現する、ということだったので、主催・墨東キネマのサイトから、問い合わせて予約。すぐに返事をいただきました。
三友館ありし日の姿。1907年開業、1944年に強制疎開で取り壊され、跡地にできたのがストリップ劇場・フランス座とのこと。現在この建物は1階は寄席、浅草演芸ホール、4階の東洋館は「いろもの寄席」の劇場。いろものとは「漫才、漫談、コント、マジック、紙切り、曲芸、ものまねなど、落語以外の演芸のこと」で、いろもの専門の都内唯一の劇場だそう。
昭和の香りしかしない場内。緞帳の雰囲気が映画館とは違う。座席ももちろん、ドリンクホルダーなんてものはありません。今回のイベント、映画説明つきの活動写真3本の合間に大正演歌、紙切り。「映画館と観客の文化史」を読んだ時、アメリカの初期の映画館の多くはボードヴィル劇場を映画にも使う、という場所だったから、上映前や幕間に様々な芸を見られるような、ただ映画を観るためだけの場所ではなかった、と書いてあったので、かなり忠実な再現なのだろうな。
冒頭は岡大介さんという人による大正演歌。まだお若い…20代?ほどの若者なのだけど、最初はフォークを歌っていたけど、日本の歌のルーツを彼なりに辿って行ったら日本人の叫びとしての演歌に辿り着き、明治や大正の古い演歌ばかり歌っているのだとか。演歌…それも現代のではなく昔の…というだけで興味深いし、そもそも何故、最初はフォークだったの…?というところから問うてみたくなる若者だった…。
次は活動写真「キートンの文化生活一週間」。無声映画のぴったり横について筋を説明したり声色を変えてセリフを言ったりすることを活弁と呼ぶと思っていたのだけど、当時の正式な呼び方は「説明」だったそうで、このイベントでは「説明」という表記が使われていた。そしてこれまで観た説明つき上映は、1人で全ての役を担当する方式だったけど、この映画は男女1組、2人で男性は主に男性の、女性は主に女性の声を担当し、掛け合いながら説明していく方式。
「キートンの文化生活一週間」は、1920年の映画。 結婚式から1週間、新婚夫婦の顛末を追ったもので、結婚祝いに家をもらうのだけど、いざその場所に行ってみたら土地しかなく、資材と組立説明書が置いてあって、読みながら自分で家を建ててね!という成り行き、想いを寄せていた女性をキートンにとられた男がいたずらしたせいで、びっくりハウスが出来上がり…というドタバタ喜劇。キートンの敏捷な身体芸と新婚夫婦のラブラブ描写が交互に映される凝った楽しい短編。そして観ながら思い出していた…これ、私、過去に観たことある…!たしか、シネマヴェーラで。あの時は無声状態で観たけど、説明つきはやっぱりいいなぁ。当時はこれに音楽の生演奏がついていたのだから、今から思うと贅沢で羨ましく、映画を観ることは、現在、映画を観ること以上に生活のイベントだったのだろうな。
それにしてもバスター・キートン、やっぱり男前。顔は男前・無表情で固定したまま、身体だけきびきび動くスタイル、私はチャップリンよりキートンが好き。
明日に続く…!