小津安二郎記念・蓼科高原映画祭 1本めは「淑女と髯」。1931年のサイレント。活弁つき上映で、弁士は澤登翠さん!
生まれて初めて活弁つき上映を観たのは10代の頃、京都みなみ会館で観たグリフィス監督、リリアン・ギッシュ主演の「散りゆく花」で、その時の弁士が澤登翠さんだった。映画自体の面白さもさることながら、登場人物ごとに声を変えながら時代背景もきっちり説明があるので、古い映画がぐっと身近に感じられて、ああ、至福とはこのことだわ…と大満足で映画館を出たのだった。それ以来の澤登翠さん、ほとんど外見の変化がない。年齢不詳すぎる美魔女…なのはやっぱり、映画のエキスを日々吸っておられるからでしょうか。
「淑女と髯」主演は岡田時彦、岡田茉莉子のパパ。大学の剣道部主将の男はひげもじゃでバンカラ、女心にも疎く、女性の誕生日パーティーに招ばれて行っても、その外見だけで女子たちの顰蹙を買い、おお、これは踊りの会であるか?踊りなら俺もできるのであるよ。と踊るのが剣舞という日本男子感あふれる舞で、パーティーの主役女性を哀しみで泣かせる始末。髯を剃ることもなく出かけていった就職面接に髯のせいで落ち、アドバイスをもらって髯を剃ってみたら、あら男前出現。手のひら返したようにモテ始める…という物語。岡田時彦は髯を剃る前のバンカラ演技のほうが楽しく、女たちよ落ち着け、髯の奥にある美男子ぶりに髯があるうちから気づいていたら抜け駆けできようものが。と思ったけど。
そして1931年の映画だから、モボ・モガも、もどきではなく本物が映っており、洋装・和装が入り混じり、洋館に和装の女性が集まったり、三揃えを着たモボと和装女性が珈琲飲んでいたりする和洋折衷が楽しい。 「非常線の女」を観た時も思ったけど、撮り方が上手いのかセンスのせいか、小津監督のこの時代の映画の洋館でのパーティーシーン、ルビッチ映画みたい。
写真右の和装の女優がヒロイン・川崎弘子で、いやぁまぁ、ほんまに夢二の女が動いてるみたいやわぁ。感嘆。着物もさることながら、髪型やメイクが。現代女性が見た目だけ真似てもこうならないはず。日本人の外見も時代とともに変化するのだなぁ。
澤登翠さんの活弁、活弁であることを忘れさせるぐらい自然で映画にすっと集中できる。熟練の技、久しぶりに堪能させていただきました。