東京国際映画祭の感想記録スタート。フィルメックスまでには絶対、書き終わらないと断言…
1本目、コンペから中国映画「ぼくの桃色の夢」。ハオ・ジエ監督。各国から来たオリジナルポスターが楽しみなのだけど、この映画はいかにも中国大陸っぽいデザインで…。タイトル、字幕だと「我的春梦」( 梦=夢)だったと思うのだけど、ポスターだと「我的青春期」になってるのは、ちょっとエロティックなニュアンスのある「春梦」がもしや当局の検閲に引っかかったなどの理由だろうか。
あらすじはこちら
中国の農村、少年は学校に入学し、親元を離れて共同生活が始まる。成績順に寝床の位置も決まり、狭い面積に何十人もがひしめきあって眠る。同級生の少女との初恋は実るが、やがて別れ、偶然観た映画に惹かれた青年は一路、北京を目指す。中国一の映画の名門・中国電影学院に入学し、めきめきと売れっ子になった男は、初恋の女と再会し…。という物語が、性への目覚め、80年〜90年代の中国の変化を背景に描かれる。
監督のプロフィールはよく知らなかったのだけど、映画監督の青春期の物語だから、監督自身のことなのかな?と思えば、後のQ&Aで「80%以上、自分の話」と答えていたので、なるほど。ハオ・ジエ監督は「80后」、1980年以降生まれと呼ばれる世代で、一人っ子政策ゆえ子供はちやほや育てられ(小皇帝、という言葉もあり)、教育改革で農村の子供も成績次第で大学に進学できるようになったり、同時に経済の急成長があったり、わがまま、ゆとり的な批判を受ける世代…の監督で、中国のそのような背景も映画に盛り込まれており、大学に行くと決まった青年を、農村のみんながパレードのように誇らしく送り出す場面など興味深い。
少年期、高校時代、成人後の3つのパートから成り、主人公は2人の俳優、初恋相手は1人の女優が演じている。女優が変わらないことで映画のまとまりはあるものの、溌溂とした少年期、恋愛と苦悩の高校時代、最後の成人後は現実味溢れるほろ苦いトーンからいきなりシュールな超展開を迎え、最後はポカーンとした。鈴木清順のような超展開だった。監督によると3つのパートで作風が違うのは、主人公自身も変化していくから、という理由らしい。
私は詳しくないのだけど香港ノワールの主人公の名前が使われていたり、青年が映画に目覚めるきっかけが「マレーナ」だったり、と映画監督の半自伝的映画なので映画モチーフも散りばめられ、「マレーナ」を選んだのは当時の中国で大ヒットした映画で、「自慰すら健康に悪いこととして禁じられていた世代。マレーナは衝撃だった」とのこと。へええ。
写真左が監督、右は主演の2人。上戸彩と裕木奈江とビビアン・スーを足して割ったような女優さん、可愛い!小学生から成人を1人で演じることについては、成人後のほうが年齢が遠いので人間観察したり人の話を聞いたりして役作りをしたのだとか。監督自身も出演していて、たぶん電影学院の寮で主人公の隣に住んでた人…のはず。主人公に映画の知識を与える理屈っぽいシネフィルだったような。
東京国際映画祭でここ数年、何本か中国映画を観ていて、90年代後半あたりの学生生活を振り返るような青春映画が多い気がするのは、その後あまりに変化した中国にとって、その時代は既にノスタルジアを感じるということなのだろうか。この夏久しぶりに北京に行ってみて、もう自分が過ごした頃ののんびりした、空の青い北京なんてどこにもなくて、過去のものなのだなぁ、と思ったことと重なった。友達にも、あなたがいた頃の北京は毎日空が青かったけど、最近じゃ青い空なんて滅多にお目にかかれない。って言われたし。電影学院、行ってみたいと思いつつ今回も時間が足りず行けなかったので、この映画で内部を案内してもらって観光気分。ハオ・ジエ監督の映画は性がテーマのものが多いらしく、過去のものも、これからのも観てみたいと思った。