CINEMA STUDIO28

2015-11-27

TIFF2015 / フル・コンタクト

 
 
東京国際映画祭の記録、7本目。コンペから「フル・コンタクト」。オランダ・クロアチア合作で、監督はオランダ出身のダヴィッド・フェルベーク。主演はクレール・ドゥニ映画常連のグレゴワール・コラン。
 
 
作品解説はこちら。
 
 
主人公は空軍基地で戦闘機を操縦する兵士。掘立小屋のような小さな建物に籠り、オンライン戦闘ゲームを操作するように、ドローンを駆使して敵を倒す。攻撃指示はチャット画面で文字でやりとりしながら。兵器に触ったこともなければ敵と生身で接触することもない。重要な標的を攻撃しようとして誤爆したことをきっかけに、主人公は肉体と精神の均衡を崩していく。
 
 
時間が合う限りコンペは観る!と決めたものの、あらすじを読んでもどんな映画か想像もつかなかったのだけど、これが…面白かった!この日は朝から「スリー・オブ・アス」「ニーゼ」と実話ベースの映画を観ていたので、面白くなくはないけど、そろそろ遠くに連れて行ってくれるようなフィクション、お願いします!と思っていたところに観たのがこれで、こちらの吸収力も抜群だったということか。アンドロイドが女優になる現代だもの、近い未来、こんな職業の人は出てくるのだろうし、知らないだけですでに存在するのかもしれない。そして当人の職業意識次第というところなのだろうけど、何割かの人は主人公のように心身の均衡を崩していくのではないかしら。
 
 
物語は3つのパートで構成されており、まず攻撃と誤爆、彼の職業生活を描写するパート、次に心身の均衡を崩した彼が野性的な環境で身体性を爆発させるパート…このパートは幻想的で、妄想とも現実ともつかない描かれ方をしていた…最後は地に足をつけて身体性を取り戻していくパート。観る人によっては時系列の物語とは捉えなかった人もいるようなのだけど、私は同じ主人公の、時系列の物語だと思って観た。
 
 
 
 
上映後、Q&Aに登壇したのは監督(左)と主演俳優(右)。監督のほうが俳優オーラある…。オランダの人って本当に背が高いなぁ。監督は中華圏で映画を撮るなど国を越えた作品作りをする人とのことで、現代人が日々接するバーチャルな世界…ネットにしろSNSにしろ…を題材にした映画を過去にも撮っているとのことで、機会があれば観てみたいな。これだけバーチャルなものが我々の生活に入り込んでいるのに、それを扱った映画がほとんどないから自分で撮った。ときっぱり話したのが印象的。確かに私もそう思っていて、この映画しかり、映画祭で観る(そしてほとんど配給はつかない)映画のうち、面白さを感じるのがそんな主題のものが多いのは、普段観る機会が少ないからかしら。かつての偉人の伝記やら、有名な古典小説の映画化やら、そういうのも悪くはないけど、現実の自分の問題認識をそっと掬い取ってくれて、ちょっと先の未来を提示してくれるような映画を普段からもっと観たいと思っていて、映画祭でこの映画を観られたことが嬉しい。そしてSNSにも毎度すぐ飽きてしまいがちな私、ぐっとバーチャルなものに向かう時間を減らそうと試み始めているので、主人公の変化、進化とも呼べるそれは、主人公ほど特殊な道ではないけれど、自分も辿っていくステップなのだろう。
 
 
上映は六本木ヒルズのスクリーン7だったので、登壇するとすぐに監督は興奮した様子で、このような大きな素晴らしい環境のスクリーンで、こんなに熱心な多くの観客と一緒に自分の映画を観たのは人生で初めてで感激している!と何度も言っていた。この映画は特に、スクリーン7で観るべき映画だったな。身体に響くスクリーンの広さ。
 
 
少し時間が経って「フル・コンタクト」を思い返してみて、クローネンバーグの「コズモポリス」を観た時の興奮に感触が似ている気がしている。あちらはリムジンの中から世界の相場を操作する男の物語で、途中、愛人がリムジンに乗っては去っていき、失われた身体能力を回復させるための道具のようにセックスが描かれていたけど、「フル・コンタクト」でも最初と最後のパートでそんな場面があり、そして全く違うシチュエーションながら相手を同じ女優が演じていたのが記号的で面白かった。
 
 
 
 
右が監督。大きい…!TIFFのサイトから監督の公式サイトをチェックして、プレスシートをダウンロードするぐらい気に入ったこの映画、配給はきっと難しいんだろう。何度も観たいなぁ。