「セッション」をギンレイホールで。
公開時に話題になってた映画だったけれど、その時、他の映画を観るのに忙しかったので後回しにしていたもの。アメリカで一番の音楽院に入学したばかりのドラマーが鬼指導官に出会い、常軌を逸した指導を受ける。
映画自体はなかなか面白くて、あっという間に終わるのだけど、観終わってみると、ブラック企業をとりあげたプロフェッショナル・仕事の流儀を観た気分に。不愉快というほどではないけど、違和感はたくさん残った。
・聴覚があまり発達してない自分なので、映画を観ていても音楽はほとんど耳に届かず、名曲喫茶に自分から入っておきながら「音がうるさいな・・・」と思うほどの酷さなのだけど、それでもたまには、偶然聴いた音楽に身体ごと持っていかれるような経験もしており、しかしこの映画の音楽、主人公たちが流血しながら必死に奏でてる音楽が心に届くことはなかった。
・それは何故?あの主演俳優は何?と考えていて、演奏ができる人に演技をさせるのじゃなくて、演技ができる人に演奏を覚えてもらう、という方式で選ばれた人だから何か月か文字通り血のにじむ努力をしても、それはアマチュアの域を出ないのは当たり前なのでは・・・?その点と、「アメリカで一番の音楽院で、さらに選ばれし人々の集うバンド」という設定が感覚上相容れない。
・鬼指導官にしても、ジャズバンドの指揮ってあんなんだっけ?と思うこと多く、映画はそこを強調するもの、と理解していても、演奏中にあまりにドラムにばかり近寄りすぎないのでは。
・そして最後のシーン、表面上和解したかのように見える鬼指導官から、まさかの梯子はずしがあるけど、いくら憎い相手を陥れるためだとしても、本番のステージであの振る舞い、あなたは音楽を愛しているのですか。バトルは場外でしろ、観客を何だと思ってるんだ。このあたりは鬼指導官の、指導に対する偏った情熱ばかりピックアップされて彼らがそれでも音楽を愛する理由、についての描写が足りなかったのかもしれない。
・と、つらつら違和感ばかりあげつらうのは、目指す高みに到達するために、あのような方法しか選べない人々を2時間近く観るのは、ルビッチ派の自分にはなかなか辛かったからかしら。でも、これだけ違和感を感じながらも面白みは感じる。音楽的高揚はなく、キャラクターにも魅力は感じないけど、よくわからないけどちょっと面白い。撮影も、ところどころベタすぎて笑っちゃうシーンもあって、若気の至り(監督は若い!)のエネルギーは楽しかった。この監督、次はどんな映画を撮るんだろう。
・公開時に話題だった音楽家・映画評論家のバトルについては、観終わった後にさらっと読んだ。それぞれ主張の軸足が違うので、永遠に噛み合わないのだろうけど、最後のほうは、いい大人の男たちが「あなたも偉くなったもんですねぇ」とチクチクと映画に関係ない牽制しあってて、内容より態度が残念なぐらいみっともないわ。みっともないのはアカンわ、あたしルビッチ派やから。でもバトルのおかげで観に行く人が増えたなら、映画にとって良いこと。
・「バードマン」は、もう冒頭から音楽が素晴らしかったし、映画祭で観た「Bone to be blue」も設備の良い会場で観たせいか、うっとりする音楽の素晴らしさで、ミュージシャン、プロとアマチュアの壁は厚いのだろうな。プロって素晴らしい。ってそんなオチか。