CINEMA STUDIO28

2015-07-03

Sils Maria

 
 
フランス映画祭5本目。オリヴィエ・アサイヤス監督「シルス・マリア」。「アクトレス〜女たちの舞台」という日本の名前がつけられたけど、口にした時の気持ち良さ含め、頑固に「シルス・マリア」と呼んでいこうと思う。
 
 
あらすじを引用。「大女優のマリアは、マネージャーのヴァレンティーヌと二人三脚で仕事に挑んでいた。ある日、マリアは自身がブレイクするきっかけとなった作品のリメイクへ出演依頼を受ける。しかし、その役柄は過去に演じた若き美女ではなく、彼女に翻弄される中年女性。主人公は、ハリウッドの若手スター女優だった…・。」
 
 
大女優マリアにジュリエット・ビノシュ、マネージャーのヴァレンティーヌにクリステン・スチュワート、若手スター女優にクロエ・グレース・モレッツ。去年、カンヌ映画祭のニュースをちらちら見ていたら、この3人が和気藹々とレッドカーペット歩いてる写真があって、???これはどういう映画??と思っていた。配役だけでなく、スイスの小さな村、シルス・マリアの景観。英題は「シルス・マリアの雲」でタイトルどおり、印象的な雲のシーン!調べてみると、シルス・マリアに行くには交通が限られていて時間がかかりそうなのけど、もし運良くあんな景色が観られるなら、行く価値はあるだろう。という景色だった。前半、ホテルでの授賞式のシーン、ジュリエット・ビノシュは列車で到着後、大女優らしくお召替えするのだけど、クラシックなホテルの一室にシャネルのオートクチュールがずらりと並ぶ!そして精巧な衣装に負けない重厚感ある映像。全篇通して目が喜んでる!という映像オンパレードで、これだけの女優が揃ってるのに、女優に注目するのを忘れてしまいそうになることも度々あった。
 
 
 
 
大女優を演じるジュリエット・ビノシュ、若手スター女優を演じるクロエ・グレース・モレッツ、優れた演技と知りつつ、どこかしら素の姿が投影されているのでは、と思いながら観ていた私は演出の思うツボにはまっているのだろう。この2人だけの関係だけ取り出せば、「イヴの総て」的な物語のようにも見えて、ハリウッド内幕もののあのクラシック映画と、ハリウッドから女優が起用されたこの映画の重なりとズレを楽しむこともできる。そうなるとクリステン・スチュワート、彼女は何なのか。クロエ同様、ハリウッド若手スター女優筆頭のクリステンが、大女優と二人三脚ながらも完全に黒子に徹し、息詰まる理不尽で狭い関係の隙間から、ちらちら垣間見える若い女の自我が物語を揺さぶっていく。シルス・マリアの山荘でのビノシュとの2人きりのシーン、才能が反射しあって眩しい。あの場面は演技合戦、などと呼んでは不粋だろう。反射しあいながら高い次元に昇っていくような場面。


最後の章、ビノシュの表情ばかり観ていたのだけど、朝イチの上映、静謐な画面、意識が遠のく時もあったので、公開されたら必ず二度目を観に行くつもり。見えなかったところがたくさん見えるといいな。
 
 
 
 
Q&Aにはオリヴィエ・アサイヤス監督。通訳は福崎裕子さん。この方が通訳されると、超絶技巧の通訳っぷりに唸ってばかりで、あれ?監督、何を言ってたんだっけ、まぁいいや、あの通訳聞けたから。って気分になりがち…。
 
 
以下、Q&Aのメモ。
 
 
・「カルロス」「5月の後」と、70年代を描くものを撮った後、自分を新しくしたい感情が自分の中にあった。語りたいことを語り終えたと思った。ビノシュとは長年の友人で、何か作りたいね、と言い続けてきた。形にするには時間がかかったけれど。


・ビノシュと脚本を一緒に書いたわけではない。電話がかかってきて、知り合って長いのになぜ一度も一緒に仕事したことがないのか、お互いのフィルモグラフィーにそれぞれの映画が欠けていると思った。「シルス・マリア」は過ぎた時間、過ぎゆく時間の映画だけれど、ビノシュには何をテーマに脚本を書いているのかは話さなかった。

・クリステン・スチュワートは「トワイライト」シリーズで有名な女優だが、映画を観て、独特の存在感のある稀有な女優で、端役でも記憶に残って忘れない、またカメラ映りの良さもあり、アメリカ映画で珍しい特異な女優だと思う。僕の映画はヨーロッパのインディペンデント映画で、彼女のいる世界とはギャラも環境も違うが、リスクを冒して出演してくれた。

・(クリステンへの演出について)登場人物になるのではなく、彼女自身になること。自由を与えてあげること。自発的なところを重視してあげられると思った。そうすることで、今後の助けになるのではないか、女優としてのキャリアを遠いところまで伸ばしてあげられるのではないか、と思った。

・ビノシュとクリステンの気が合わなければ映画がうまくまわらない、2人の関係に依存している部分があった。クリステンはビノシュの女優としてのキャリアに興味を持っており、ビノシュはクリステンの映画への情熱、芸術への要求の高さを感じていた。2人の関係が進展するのを、ドキュメンタリーのように撮っただけだと思う。


「シルス・マリア」は10月24日から公開とのこと。