CINEMA STUDIO28

2015-01-11

FORMA

 
 
アップリンク、見逃していた映画特集で坂本あゆみ監督「FORMA」を観る。見逃した理由は、公開当時ほかに観るものがあったから、ポスターを見かけたけどどんな映画か想像できずざっくりでも調べる余裕がなかったから…等に加えて、女性監督に苦手意識があるから。だったのだけど、これはほんま見逃したらあかんやつやったわ。アップリンク、ありがとう。145分と長い映画だけどスクリーンを凝視して動けなくなり、持ってた韃靼そば茶を飲む隙間もなく、エンドロールでようやく喉の渇きを覚えた。帰り道は「……!(すごい人発見しちゃった)……(すごいもん観ちゃった)」という思いで頭いっぱい。
 
 
 
見終わって、ポスターのあれ何だったんだろう?って思い返してようやく、あ、冒頭のアレね。と。「145分のアンチテーゼ」
 
 
 
ポスターから伺い知れなかった中身はこんな感じで、高校時代、テニス部で一緒だった女2人が、何年ものブランクを経て再会する。 髪の短いのが綾子、長いのが由香里。テニス部では由香里がリーダーだったけど、再会すると由香里は工事現場の誘導アルバイトをしており、一方、綾子は化粧品会社で主任になっていた。いつまでもアルバイトしてられないでしょ、と心配したふうに、綾子は由香里を自分の部下として会社に迎え入れ、高校時代と上下関係が逆転する。父親と2人暮らしの綾子。母親の不在は語られない理由があるらしい。由香里は婚約者がいる。2人の間にある過去、憎悪が徐々に明るみになっていく…。
 
 
音楽も一切なく、映画用の照明もあてられず、家庭用ホームビデオで撮ったかのような質感で進んでいく。カフェでの2人の会話が別の席の客の会話の向こうにあって聞き取りづらかったり、カメラが登場人物たちに近寄らず表情が見えにくかったり、不自然なところでカットされたり、不穏さを残したまま進み、後半で伏線はすべて回収される。よくできた脚本だなぁ。ところどころ長回しがあり、ラスト近くの長回しは24分ワンカットらしいのだけど、部屋の或る場所に置かれた固定カメラから撮っており、起こってるらしい何かはほとんど、段ボールの向こうにあった。ルビッチの扉の演出みたい…。
 
 
ここのところ「紙の月」に「ゴーン・ガール」、そしてこの映画。女をどう描くかという映画ばかり観ている気がして、描き方もそれぞれだなぁと思うのだけど、「紙の月」を観た後の消化不良感を抱えながら、いろんな感想に(特に男性が)「女って怖い」「衝撃的」などと書いてあるのを読むと、あれのどこが衝撃的なのだろう。事件に手を染めるかは別として、あんな女、わりといると思うけど?と鼻白む思いだったのが、「ゴーン・ガール」で胸のすく思いを味わい、「FORMA」でとどめを刺した感じ(何に?)。女である自分が当事者として立ち会う、女の嫌な部分だけ煮詰めたジャムみたい。よくできたフィクションだけど、2人のセリフ、表情は確かに聞き覚え見覚えのある女くさいそれだし、私もこういうこと日々言われてる気がするなぁと思うし、私自身もこういうこと言う時こんな表情なのだろうか。とゾッとした。
 
 
残酷だな。と思ったのは、2人の見た目。造形やファッション。映画は作り物なのだから、誰に何を着せるか、どんな髪型にするかも監督の思いなのだ。と考えると、こんな性格の女は、こんな洋服は着ないんじゃないかな?と、むず痒く思うことはよくあるけど、この映画では一切なかった。2人とも見た目に凝るタイプではなく、高いものも身につけていない。バナー広告でよく出てくる「アシンメトリーなトップスが1980円!」みたいな、ぴらっとした洋服に見えるし、シーズンごとに何かを買う。という態度でもなく、必要になった時に駅ビルのセールで買います、といった感じ。
 
 
暗い憎悪を長年たぎらせてきた綾子は露出度が低く、化粧気も少なく、後になって思うに、あれは男性への嫌悪感からくるのだろうか。一重瞼の女優は表情の少ない演技で、考えていることが外から見えづらい。対して由香里は髪は長く、派手ではないけどくっきりした美人で、オフィスでは地味にしてるけど、デートの時はニットワンピースにタイツ。グラビアの人々は何故よくニットワンピースを着ているのだろう…と、ふと考えたことがあって、ほどよく身体のラインを拾い、ワンピースであることで女性らしさもあり(単純!)、なおかつ脱がせやすそう。というのがいいのだろうな、と思ったりしたのだけど、由香里のニットワンピースは、グラビアのニットワンピースと同じ理由で着せているに違いない!と勝手に思った。あるいは婚約者の好みなのかも。2人とも洋服に頓着せず、おしゃれではないけど、明確に違いがある。ということをうまく見せる確信犯的なキャラクター造形だなぁ…と唸った。女性監督ならではの細かい残酷さ…。
 
 
女性監督に苦手意識があるのは、これまでたまたま観た映画が、やたら女性性を謳う!みたいなものが多かった気がして、そんなに主張しなくてもあなたが女だって誰でもわかるよ。ってウンザリした気分になることが多かったからなのだけど、女性にもいろんなタイプの人がいる。ということは、私もよくわかっているのだから、女性というだけで敬遠してはいけない。ということを、見逃していた「FORMA」の衝撃で、反省した。坂本あゆみ監督は、塚本晋也監督に憧れて映画の世界に入り、塚本監督のスタッフとして何本も作品に関わってきたとのこと。この映画がデビュー作で、ベルリン映画祭でいきなり賞を獲った。今年はまだ始まったばかりだけど、去年これを観ていたらBest10には必ず入るし、周りの人にも吹聴してまわったはず。「FORMA」を撮って、次は何を撮るのだろう。次回作があるのなら、次は初日に駆けつけたい。