去年見た映画群から、メモしておきたいものをピックアップ。秋、フィルムセンターで開催されていたMoMA ニューヨーク近代美術館 映画コレクションのプログラムから、「有名になる方法教えます」を観る。「マイ・フェア・レディ」でお馴染みのジョージ・キューカー監督、1954年。オープニングで introducing Jack Lemmonとあったので調べてみたら、それまで舞台で活躍していたジャック・レモンの映画デビュー作なのだとか。ジャック・レモンは銀幕登場のその瞬間から、ジャック・レモンとして完成されていた。主演はジュディ・ホリデイ。
NYで職にあぶれた若い女が、失意の表情でセントラルパークを歩く。なぜか、裸足で。ビデオ…じゃなくて8㎜フィルムの(?!)カメラをまわしていたジャック・レモンが女に気づき、話しかける。有名になりたいのだけど、方法がわからないの。と悩む女は、街に自分の看板を出して自分を宣伝すればいいのだわ!とひらめいて、なけなしのお金を全部はたいて広告を出す。
GLADYS GLOVER! こんな風に!
ずっとその場所に広告を出し続けていた大企業の御曹司が登場し、女に密かに想いを寄せていたジャック・レモンと三角関係に…。いきなり裸足で登場し、ビーンボールを投げ続ける女は、田辺聖子なら「ちょっと頭の涼しい子」って表現しそう。最後はラブコメのセオリーに従い平和かつハッピーに収束するのだけど、特筆すべきはジャック・レモン!
ジャック・レモンの役柄は映画監督志望の若者。あちこちで彼女を隠し撮りしていたフィルムを繋ぎ、短篇映画をつくり、街を去る時、スクリーン、フィルム、映写機の上映3点セットを彼女の部屋に残していく。
部屋に帰ると女は、残されたメモを発見。窓を閉めて、カーテンも閉めて部屋を暗くし、映写機のスイッチを入れて。と、メモは上映手順を指示。Blu-rayプレイヤーのボタンを押す程度のことしかできない私は、ハードル高いな!不手際でフィルムを焼いたりしてしまいそう…とハラハラしながら見守ったけど、昔の人は慣れているのか、スムーズにひとりのためのプライベート上映が始まり、いなくなった男の愛の告白をラストシーンに観る。
なんてキュートな愛の告白!そういえばセントラルパークの出会いの時も、去り際にジャック・レモンは手の甲にキスし「フランス映画で観て、やってみたかったんだ」って言ってた。どんなロマコメでもキュンとすることは稀な私でも、映画好きとしてツボを押された気分…。
珍しい動物を眺めるように観察してみたところ、靴を脱いで裸足になる=素の自分に戻る。という意味が彼女にはあるらしい。靴を脱いで映画に登場した彼女を、じろじろとした好奇の視線ではなく、素直に見つめていたのはジャック・レモンだけでした。という物語。50年代のセントラルパークの風景を撮ったダイナミックな映像も素敵だし、可愛い映画!ただしあのキュートな男は、ジャック・レモンが演じてこそ…!