朝イチ、ベッドでスマホを手にとり、うっかりものすごい画像を見てしまい、ニュースをつけてしばらく見た後、つけっぱなしで本を読み始めた。図書館から借りてる川上未映子「きみは赤ちゃん」、今日返却せねば。川上未映子さんと阿部和重さんの作家夫婦の初めての出産記録。あちこちで評判を聞いていたので読むのを楽しみにしていた。
どんな状況でもiPhone手放さず揺れ動く心象を記録していたようで、作家という職業の人の執念を感じる。今のところ人の親にはなっていないけど、親の子ではあるわけで、中間あたりの位置をふらふらしながら一気に読み終えた。こんな詳細に極私的出来事を綴って公開し、それが面白い読み物になるなんて、川上未映子さん素晴らしいなぁ。
阿部和重さんが映画好きだということから、この一節。
「あべちゃんは映画がとても好きだから、オニ(お二人の子供の愛称。オニギリみたいだから)と一緒に映画館に行ける日がくるのをいまから心待ちにしている。もちろん、家でもオニと一緒に映画を観る。イメージだって、すっかりできあがっているみたいで、そのストックの量たるや、ちょっと信じられないほどなのである。映画専門チャンネルで録画した映画を毎日本当に楽しそうにまずは自分のために整理しながら、「オニとは、これを観る」、「これも観る」、「それから、これもずうっと観る」とかいいながら、いつも本当にうきうきしているのが伝わってくる。」
それに川上さんが、オニが、おれ、映画とか、いいわってゆったらどうするねん。とツッコミを入れているくだり。親の子の立場からすると、阿部さん、うちの父ですか?という感じで、自分の幼少期を思い出さずにいられない。父がうきうきと準備していたかは知らないけど、気がつけば一緒にたくさん映画を観ていた。モノクロのクラシック映画が多かった。そして私は映画好きに育ったけど、一緒に途中まで楽しんでいたはずの兄は、おれ、映画とか、いいわ。って感じに育ってるので、兄弟とは不思議なものよ。という話だし、狙ったとしても確率は五分五分やで。って思ったけど、だいたい何でも、当たり前に確率は五分五分なのよね…。しかしまわりの、息を吸うみたいに映画を観る人、映画を観ることが特別なことでもなんでもなくて、日常の一部に歯磨きぐらいの当たり前さで組み込まれてる人って、「親が映画好きで」という人がわりと多いので、環境は本当に侮れない。阿部さんが、子供に観せたいと準備してる映画が何なのか興味ある!
それから、川上さんが、回避できる痛みは回避したい。という理由で無痛分娩を選択したところ、お腹を痛めて産んでなんぼ、みたいな「痛み信仰」的な反応があったらしいのだけど、その中に「えー、小説家なのにもったいない」とか「アーティストなのに気合入ってないよねー」という反応があったらしいことに、そんなこと言う人いるのか!って驚いた。これに対する川上さんの言葉。
「でも、いわせてもらえば、そんな「体験を世界から恵んでもらいたい根性」で小説書いてるわけじゃないし、小説ってべつに人生とか体験とか関係ないところで成立するから小説なんであって、こういうなにもかもを一緒くたにする「女の一生ありがとう」的な発想には、なんだかほとほと疲れるところもあった。」
わー。私が女性監督の映画に苦手意識があったのは、そういうことだったのかもー!と、すっかり説明してもらった気分。すっきり。
出産経験者の方々は「学校の指定図書にしてほしい」「母子手帳と一緒に配布するのはどうか」「男性にこそ読んでほしい」という意見が多いようなので、そ、そうなのか…と思いつつ、私もこれから何度か読み返したいな、と思っている。
一部はこちらでも読めるみたい。大阪出身の川上さんの文章は関西弁がするっと混じるのが気持ちよく、地元の友達と喋ってるみたい。