CINEMA STUDIO28

2015-02-05

TAVARATAIVAS




キネカ大森で。フィンランド映画「365日のシンプルライフ」を観る。フィンランド語の原題「TAVARATAIVAS」は「モノ天国」という意味とのこと。ドキュメンタリーで、監督が自分自身の体験を撮っている。ペトリ・ルーッカイネン(この小さなッ どうやって発音したらいいの)監督は、3年前に
恋人と別れ、寂しさを埋めるためにも買い物しまくり、洋服、レコード・・・好きなものに満たされた天国のような部屋に暮らしているけど、幸福度は低いまま。自分自身を変えるために、実験をはじめる。それは、自分のすべての持ち物を倉庫に預け、




1.  1日1個、物を取り出すことができる
2.  1年間続ける
3.  1年間ものを買わない


というルールを課したもの。何もないガランとした部屋に裸で立つ監督が、雪の舞う夜、裸で倉庫までダッシュする場面が冒頭にある。倉庫が近くにあってよかったね・・。そしてこうやってみるとただの変質者・・。






最初に持ち出したのは、ロングコート!なぜなら、毛布になり、ボタンをとめれば寝袋にもなり、もちろん衣服でもある。1枚で何通りにも使えるのだ。食料は翌日、弟が届けてくれたけど、冷蔵庫がないので二重窓の隙間に入れて冷やす。そうやってモノがひとつひとつ増えていく。


自分だったら何を持ち出すだろうと考えると、最初の10個は個性が出そう。監督、下着の優先順位、かなり低かった・・。しばらくタオルもなくて、シャワー浴びたらコートで拭いて、すぐそのコートを着てた。


ナイスな弟に加え、汚れた衣類を洗濯してくれる友人、なんでも修理してくれる友人、そしておばあちゃん!おばあちゃん、ムーミンの物語に出てきそうな、妖精のような存在感。おばあちゃんの若い頃、フィンランドは貧しくモノは手軽には買えなかった。そのためかモノへの価値観がしっかりしてる人で、珠玉の名言が次々と宝石のように零れ落ちてくる。人生は、モノでできていない。おばあちゃんは主婦だから、最初に1つ選ぶなら「冷蔵庫」って即答だった。


この映画を実用書のように捉えると、後半につれて実験の経過は曖昧にしか説明されないのでイライラするかもしれない。けれど後半、ついに新しい恋に出会った後のなし崩し感こそ、これぞ映画と思った。映画は実用書ではない。自分ひとりを満足させるためにはモノは100個で良いけど、人生を楽しむためには次の100個が必要になる。人間は社会的動物なのだな。


公開に先駆けてフィルムセンターで何回か上映された時、1度目を観に行ったので、これで2度目。いかに少ないモノだけで暮らすか。は、私にとってここ15年ほどの興味関心ごとなので、また時間を置いて何度も観るかもしれない。エンドロールでは、監督が持ち出したモノの名前が順番に流れるのだけど、フィンランド語なので解読できないのが残念。知ったところで自分にとって参考になるかは別の話なので、裸で極寒のフィンランドを走る監督の姿を目に焼き付け、極端だけど面白い例として記憶から適時取り出しながら、私は私のモノとの格闘を続けるのだ!


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フィンランドで公開された後、多くのフォロワーが生まれたとのこと。つまり、同じことをやってみる人が続出したらしい。モノを持たない領域について、いろんな本やブログを読んできた。そして「モノの数を数える」ことにこだわる人は、男性が多いように思うのだけど、社会的動物であろうとすると女性は持ち物が増える傾向にあるからなのかな・・。外で仕事しようとすると、洋服に加えて失礼にならない程度のメイクも要るとして、ファンデーション、マスカラ、アイブロウ・・・と数えていくと、途中でイヤになりそうだものね。


そんな中、数を数えることを達成している女性を発見。興味深く読ませていただいている。驚愕の少なさ!





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いろんな人が現れては消えていき、定期的にブームがあるけど、足かけ10年以上、揺るぎない師匠だったのは大原照子さん。モノと自分は一過性の関係ではなく、一生続く関わりなのだから、誰に影響を受けようと、何をどれだけ読もうと、自発的な動機づけがいかに強いか、ということが肝のように思う。私の場合、トランクひとつで海外に行き、数か月暮らして一時帰国した時、もともといた部屋のモノの多さにうんざりしたことがきっかけ。大原照子さんは40歳過ぎ、単身イギリスに留学したことや、イギリスであちこちキャンプしてまわった楽しい経験がきっかけだったそうで、動機が似ていることが、ヨガや禅の思想を持ち出されるより、私に馴染みやすかったのだと思う。


そして英国骨董屋を営む方なので、少なく持つなら美しいものを。という視点で選ばれたモノの美しさや、料理研究家の先駆者でありながら料理道具だけは聖域。と言わずに、料理道具や調味料も厳選している潔さ。緑豊かな郊外でほっこり暮らす・・のではなく、青山に住んで都心生活を楽しんでいるところも、一方的に、自分と嗜好が似ている方だな、と参考にしていた。


一番好きな本はこれ!何度読んだかわからない。




70歳を超えてから、好きなことをのんびり楽しむために自宅をリフォームした時の記録。年をとると、できなくなることが増えるから・・・という記述がたくさんあるのだけど、仕事やら何やらでほとんど家にいない私は、家に帰り着く頃には残された体力は限られていて、体力が衰えた年齢でもモノを厳選し綺麗に保つコツに溢れた大原さんの本は役に立つことばかり。


先週、亡くなられたと知って、師匠を失った気でいる。



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この映画の1年の実験を経て、倉庫に溢れていた監督のモノはどうなったのだろう。少ないモノだけで生きていけるとわかったから、余剰は処分したのか、それとも。なんとなく、「モノが好き」オーラを感じたので、時間が経つとまたモノに溢れた生活を送りそうな気がしたのだけれども。