若尾文子映画祭4本目、「夜の素顔」。この泥棒猫ッ!って吹き出しつけたくなるこの写真、まさにそんな場面なのです。
あらすじを引用。
「美貌と才覚でのし上がってきた野心あふれる日舞の家元・朱美(京マチ子)。日舞踊研究所を拡大させようと奔走するが、夫と内弟子の比佐子(若尾文子)の関係に不穏なものを感じるようになる。女同士の濃密で緊張感あふれる関係を描いた人間ドラマ。京マチ子と若尾が色とりどりの衣装で艶やかに踊る舞台シーンも見どころ。」監督は吉村公三郎、脚本はまたもや新藤兼人、働き者!1958年大映映画。オープニングで流れる唄?小唄?都々逸?は「夜の素顔」というオリジナルで、監督が作詞している。あの歌詞はこの映画をさりげなく要約していたように今となっては思うので、機会があればまた、しっかり聴いてみたい。
パンフレットからカタカタとあらすじをタイプしながら……ん?「色とりどりのの衣装で艶やかに踊る舞台シーン」、まるで覚えてない…!確かにそこも見どころだったのかもしれないけど、この映画は他に語らねばならぬところが多すぎる…!
可愛い顔して強かな若尾文子もさすがのしっかりした演技で素晴らしいのだけど、これは主演・京マチ子の映画。京マチ子の役柄は大阪生まれ、親が子育て放棄したがゆえに釜ヶ崎(ドヤ街)で体を売って生計を立て、日舞の世界においても違う流派の家元やパトロンを女の武器を駆使して丸めこみのし上がり…という、いろんな意味でエネルギー過剰な女。成功した京マチ子の家に、身元を明かさず押しかけ遠回しに金をせびる女の正体は大阪で別れたはずの母親で、演じるのは浪花千栄子!!!(興奮)!! 京マチ子と浪花千栄子が親子って…そんな家、どれだけお金積まれても絶対住みたくない…。2人の対決シーン、京マチ子が風呂上がり、体もろくに拭かない水の滴る、バスタオルだけかろうじて巻いた女状態で、そんな髪も体も水びたしの京マチ子と浪花千栄子が互いの出自を暴露しながら罵り合い、浪花千栄子の形勢は徐々に不利になり、要求金額も2000円…いや1000円…500円でええわ…帰りの電車賃だけ…どんどん少額になっていくあの場面。京マチ子って「浮草」といい、対決!という場面で片方になってることが多いけど、この映画の対決場面、もう片方にも相手に不足がなさすぎて、座って観てるだけで酸欠寸前に…。
浪花千栄子以外にも、京マチ子に地位を奪われる日舞のお師匠さん、ドサ回り先の地方の旅館で出会う祇園の芸妓が流しの都々逸唄い(という呼称でいいのだろうか)に身をやつした老女、どの女も京マチ子の行く末を暗示するような暗さとしぶとさがあった。女の人生は華やかな季節を過ぎてからも長い。
京マチ子が再起のため企画する、前衛音楽のオーケストラ生演奏つきでバレエ、日本舞踊など洋の東西を問わない新奇かつ珍妙な踊りを披露する公演「日本の夜明け」の準備と本番に向け物語は勢いよく流れ、1回のみ公演、生放送でテレビ放映もされる注目ぶりのその公演の舞台となるのが、新宿コマ劇場!え?この時代もうコマ劇あったの?と調べてみればコマ劇は56年開館、映画は58年公開だから、出来立てピカピカのコマ劇でロケしたらしい。「日本の夜明け」で京マチ子はクレオパトラと天照大神を足して2で割らないような衣装・髪型・メイクで、若尾文子は日本武尊ふうの衣装・髪型・メイク。あれ…この髪型…最近何かで観た…と思ったら「みすず学苑」のCMだった。「夜の素顔」は「みすず学苑」コスプレの若尾文子を目撃できる貴重な映画だったこと、ここにメモしておきたい。メモしておかなくても、きっと忘れられないけど。