今年の東京の夏、楽しく遊んでいたらいきなり玩具を取り上げられ、きょとんとした後に泣いてる子供のような気分。明日から9月だけど遅くはない、ちょっと返してほしい、半袖あまり着ないまましまうのは切ないし、かき氷だってあんまり食べてない。
今年の初め頃、寒くて夏という季節の存在を信じられなくなったので「海辺のポーリーヌ」を借りてきてロメールで暖をとった。夏の最終日、観たいのは「レネットとミラベル 4つの冒険」の最初の一篇「青の時間」かな。都会から来たミラベルがヴァカンスで訪れた田舎で、そこに住むレネットに出会う。同じ年頃の2人は仲良くなり、お泊まり会したり、庭にテーブルと椅子を出して食事したり。そしてレネットは「青の時間」についてミラベルに教える。
- Reinette :Tu connais l'heure bleue ?
- Mirabelle :L'heure bleue ?
- Reinette :En fait, c'est pas une heure, c'est une minute. Juste avant l'aube, y'a une minute de silence. Les oiseaux de jour sont pas encore réveillés et les oiseaux de nuit sont déjà couchés. Et là, là c'est le silence... Quand j'étais petite, je demandais à ma mère de me réveiller juste pour cette heure-là.
青の時間って知ってる?
青の時間?
時間じゃなくて、瞬間かな。夜明けのすぐ前、世界が沈黙に包まれる瞬間があって。昼の鳥はまだ起きてなないし、夜の鳥はもう眠ってる。だから、沈黙なの。小さい時はママに頼んで「青の時間」のためだけに起こしてもらってたのよ。
「レネットとミラベル 4つの冒険」は滅多に上映されず、ソフト化もされていないはず。いつでもあの映画観たいなぁ、かからないかなぁ、と思ってる1本なのだけど、ある日、これは「青の時間」では?と思うものに出会った。
何年か前、竹橋の近代美術館で「日本画の前衛」という素晴らしい美術展があり、ふらっと観に行って出会った船田玉樹という画家の「暁のレモン園」という絵。暁、なので、レネットの説明よりは少し昼寄りの時間かもしれないけど、ロメールのフィルムを映画館で観ていた時と、この絵の前に立った時の感覚は限りなく似ていた。
映画も絵も、簡単に見られないから焦がれてしまうのだろうな。夏も短いから焦がれるのだろうか。