若尾文子映画祭、7本目。「不信のとき」、有吉佐和子原作で面白くない映画ってあるのかな。これまで観たのは全部面白かった。原作の力。
あらすじを引用。
「妻と愛人、それぞれに子供を産ませてしまった男が、覆される真実に転落してゆく様を描き、人間の恐るべき虚妄と不実を暴いた衝撃作。不信に染まった現代人の、愛の生態とは?火花を散らす妻と愛人の関係を、岡田茉莉子と若尾が熱演する。」岡田茉莉子は妻役、若尾文子は愛人役、中心にいる男は田宮二郎、田宮二郎のかつての浮気相手に岸田今日子。新宿のいかがわしい風俗店にいる若い女は加賀まりこ。監督は今井正。1968年、大映のカラー映画。
なんて豪華で、似合いのキャストなのだろう。田宮二郎がポスターの序列にゴネて映画界から追放されたいわくつきの映画(wikipedia参照。田宮二郎の人生、wikipediaで知る程度ですら面白すぎて)。そんなことを知りながら観ると、調子に乗ったために転落する男の、ラストの意味深な表情、なおさら美味しく思えてくるもの。
面白いシーンが次から次へと連続して、これは原作にもあるのかな…?と考えると、是非原作を読みたくなった。若尾文子演じる愛人が、自分の部屋で具合を悪くした田宮二郎を介抱するでもなくそそくさと本宅に送り返すところとか、壮大な富士山の朝焼けに不吉な予感がして田宮二郎が怯える表情、愛人と本妻の真っ向対決…など。若尾文子と岡田茉莉子、同じく大映の「妻二人」では逆の役回りだったように思うけど、この2人が画面に映っていると華やか且つ、男には見せないけど女同士だから本音いいでしょ?というワクワクする場面の演技も、2人とも肝が据わってていいなぁ。
「不信に染まった現代人の、愛の生態とは?」とか、女って強かで怖い…という、大きな主語で語られるような物語ではなく、田宮二郎演じる男がただ、詰めが甘い、という物語のように思えた。仕事も好調、出世コースに乗り、美しい妻も、愛人も、子供も…望むすべてを難なく手に入れて、なおかつ慎重に、物静かにすべてを秘密裡のうちでコントロールできるような緻密な男ではなく、わかりやすくそそっかしい。その意味では、スマートに不倫をやり過ごせず自ら悲劇を招いたトリュフォー「柔らかい肌」の主人公と通じるところもある。観終わった後の素直な感想は、身の丈に合わないことやっちゃって、ほら、もう!ってところかな。