CINEMA STUDIO28

2015-08-08

Ozu trip / 茅ヶ崎館 カレーすき焼き

 
 
茅ヶ崎館。夕食、朝食ともに大広間を一組ずつ区切った部屋に通される。畳敷きだけどテーブルに椅子。5名ということもあってか一番広く区切られた部屋に通していただき、我々…こんなに貴族だっけ…?と言い合う贅沢さ。
 
 
私にとっては映画遺産のような旅館ながら現役、それだけで十分に魅力的な旅館で、食事しなくともすでに胸はいっぱい。食事は普通程度(それってどんな程度)に美味しかったらそれでいいな…と思っていたのだけど、なんのなんのの美味しさで嬉しい驚き。
 
 
 
アスパラガスのお浸しに続いて、玉ねぎのすり流し。
ひとつずつ順番に出てくる。
この後、界隈で仕入れた魚介の刺身、炊き合わせと続いて
メインのすき焼き!
 
 
牛も地のもので、葉山牛。
他にはステーキ、豚、野菜などのコースがあって一人づつ指定でき、
夕食の内容によって宿泊料が決まるシステム。
 
 
 
たいへん美味しいすき焼きながら…ここまでは普通。なのだけど、好みでふってください。と、カレー粉…それもただのカレー粉ではなくカレーパウダー以外に何種類かの香辛料が調合されたオリジナルのものが準備されている。牛にではなく、豆腐やしらたきなど、あっさりしたものにふってください、と説明される。
 
 
いっけん珍妙なカレーすき焼きこそ茅ヶ崎館ならではの名物で、二番の部屋で自炊していた小津監督が、とっておきの客人にのみ振る舞ったと言われる伝説のメニュー。
 
 
宿の方がすき焼きを途中まで作ってくださったので、その間あれこれ質問してみると、小津監督は若い頃からカレーが好物で、それが高じて?すき焼きに応用された、のだとか。すき焼き以外の料理はかなり薄味、関西人の私の舌にすら薄く感じるほどの繊細な薄味。京都よりまだ薄い。という味付けだったのが不思議で、料理長は関西出身の方ですか?と聞いてみたら、現在は料理は5代目館主が作っている。ただ、前の料理長が関西出身で、その味を引き継いでいる。とのことだったので納得した。雑食気味の私の舌も、年々やはり食べ慣れた味付けを好むようになっており、薄味好みを自覚しているので、茅ヶ崎館の味付け、好みだったなぁ。関東であんな味を食べられるとは思ってもみなかった。
 
 
 
 
最後は、すだちのシャーベット。館主の方とお話しすると、最近は是枝裕和監督が二番の部屋に滞在して脚本を書くなど映画の準備をされるのだとか。2008年以降の映画は、茅ヶ崎館から生まれているとのこと。最初は興味本位で泊まってみたら、静かで海もあるこの環境が気に入ったようで、それから習慣になっているとのこと。「あの部屋に泊まった人は、みんな出世されますね」と、おっしゃっていた。
 
 
お一人で滞在されたら、食事はどうされるのですか?こんなお部屋でお一人で?と聞いてみたら、基本はそうで、時々スタッフの方がいらして一緒に食事をされることもある、とのこと。みんなでわいわいも楽しいけど、こんな場所で1人で寝泊まりして黙々と美味しいものを食べるのも、1人ならではの味の染み方がありそうで、それはそれでいいな、と思った。
 
是枝監督のインタビューはこちら。小津が好きなわけではない…と。
 
 
カレーすき焼きの味は、ふりかけたからといって劇的に美味しくなる!ということもなかったけど、味わったことのない新感覚の味で、次にまたここに泊まることがあったとして、他のメニューが気になりつつも、やっぱりすき焼きを頼んで、ちょっとカレー粉ふりかけてみるだろうな。