2月に観た映画。六本木ヒルズ、午前10時の映画祭で「ニッポン無責任時代」。観たい理由はたくさんあったのだけど、長らく見逃してる間に理由を忘れて、観たい気持ちだけが残っていた。
高度経済成長期の東京、のらりくらり世の中を渡り歩いてるふうなのに、あれよあれよと出世していく男・平均(たいら・ひとし)。高級クラブで財布も持たず飲み、何か月も家賃を滞納し、手ぶらで動く。周りが彼の調子のいいそぶりに気をとられてるだけで、実はかなり賢い男だから、そぶりだけの真似は禁物というもので、植木等演じる平均、大口開けて笑っていても、目の奥が冷たくてうすら恐しい。そして歌声だけじゃなく、普段の話し声から、かなり美声なのね。
意外だったのは、いまいちテンションに乗り切れず消化不良感が残ったこと。「きみも出世ができる」(好き!)より、さらにポップな映画なのでは?と思っていたら違った。「ひとこと余計」な印象のカットがちょいちょい挿まれてテンポをぐっと悪くしてる気が・・・。大ヒットしたらしいから、その時代に合ったテンポだったのだろう。
面白いところももちろんあって、平均はあちこち出没するよく動く男だから、60年代初めの東京の風景がしっかり写っていて楽しい。大手町、恵比寿、数寄屋橋。
午前10時からこの映画を観た後は、すぐ帰宅して気分を切り替え、memorandomの原稿を仕上げなければ・・という日で、新宿ミラノ座のことが頭の隅から消えなかったのだけど、ふと、この映画に写る東京、ちょうどミラノ座ができた頃と時代が重なってるのでは・・・と思い浮かび、観終わって調べてみると、ミラノ座は1956年開館。「ニッポン無責任時代」は62年の映画だから、登場人物たちが仕事が終わった後や休日のデートに、ミラノ座に映画を観に行く。という設定があったとしても、間違ってはいない。「ニッポン無責任時代」は、いま観るとしっかり古さを感じさせる映画だったから、ミラノ座のあちこちが経年劣化でセピア色の懐かしモード漂っていたのも、当然のことだったのだな。そう考えると、東京を見る目も少し変わってくる。色褪せない映画もいいけど、しっかり色褪せる映画も、それはそれでいいなぁ。