書いてない映画について頭が働くうちに記録しておかねば。2月半ば、フレデリック・ワイズマン特集最終日に観た「チチカット・フォリーズ」は1967年の映画。ワイズマンの強烈な処女作。
精神異常犯罪者を収容したマサチューセッツ州立ブリッジウォーター強制院の内部に3ヶ月密着したもの。冒頭、収容者たちによる演芸会の場面で始まる。院長と思われる恰幅のいい男性が進行しているのだけど、この男性の表情が顔面神経痛のような不自然な動きを見せて、おお…表裏がありそうな人相…と斜めから見てしまい、斜めから見てしまうのは自分の心が斜めになっている故かもしれず、そしてワイズマンは何も説明しないスタイルを処女作から確立していた。
収容者たちがほぼ裸なのは何故なのか。衣服を着ると何か不都合でも…?そしてスタッフたちと一緒に入浴や食事など日常のルーティンを終えると自分の部屋に戻っていくのだけど、部屋の中には家具ひとつない。コンクリートのような寒々しい素材の床のがらんとした部屋で、収容者たちはぐるぐる歩き回るだけ。裸で。酷い扱いを受けているように思えるのだけど、スタッフたちがあまりにナチュラルな動きと表情で収容者たちを扱うので、やがて感覚が麻痺してくる。
67年、映画祭で上映されてから、抗議の手紙により裁判所より上映禁止処分を受け、処分は91年に判決が翻るまで続いた。猥褻以外の理由で上映禁止処分を受けた唯一のアメリカ映画とのこと。
収容者が亡くなると棺に入れられ火葬場に送られる。亡くなったのは、冒頭、丸太を洗うような手つきで入浴させられていた収容者だったはず。棺を運び出すとき、スタッフの男が一瞬、目を押さえる仕草を見せたのを確認すると、なぜかホッとした。映画は最初と同じ、演芸会の場面で終わる。いま観たものは素敵なショーでした。と言いたいのだろうか。ワイズマン、透明な位置にカメラを置きながら、しれっと作為を忍ばせるので気が抜けない。
上映前のロビーは、こんなに混んでいるシネマヴェーラ、お目にかかったことがない人波で、立ち見もびっしりの盛況だった。最後、収容者たちの待遇はその後改善された。と、言い訳みたいなテロップが出たときは、満員の場内からどよめきが起こった。