CINEMA STUDIO28

2015-03-05

Borderless

 
 
 
シネマート六本木で。東京国際映画祭アンコール上映で、イラン映画「ゼロ地帯の子どもたち」を観る。
 
 
 
アジアの才能を発掘する目的で設けられた、長篇2作目までの新人監督を対象にした「アジアの風」部門に出品され、審査員の満場一致で受賞が決定したとのこと。イラン映画には、「別離」のアスガー・ファルハディ監督や、東京国際映画祭のコンペに出品された「メルボルン」のような、練りこまれた脚本でイランの文化的軋轢や人間心理の闇に迫っていくような映画の系譜と、キアロスタミのように、素人を起用し、そこから生まれる何かを撮っていく系譜に分かれ、この映画は後者、という説明(うろ覚えなので間違ってるかも)が上映前にあった。監督は、何十本もの映画の助監督をつとめた後、この映画が長篇第1作。
 
 
 
 
 
 
 
 
原題は「Borderless」、イランとイラクの国境至近の場所にある、水辺(川?)に棄てられた廃船に、イラン人の少年が一人で暮らす。大事にトランクに仕舞い込んだ写真を見るに、両親がいたらしいのだけど、今は1人。永遠に続くかに思われた一人っきりの生活に、イラク人の少年と思わしき闖入者が登場し、廃船の陣地を争い、船の中に国境のようにロープで線が引かれる。やがてイラク人が連れてきた赤子、そしてアメリカ兵が増えて、誰もが誰もの言語を解さないまま、敵対意識から、やがて疑似家族のような連帯が生まれ・・。
 
 
 
国境にある廃船を舞台に、国境に絡む問題、イラン、イラク、アメリカのそれぞれを代表する人物が登場する、着想だけで素晴らしい映画になることが保障された映画で、実際に素晴らしい。冒頭3分の1はイラン少年しか登場せず、彼の日常がただ映し出され、もしかして台詞のない映画なのかしら?と思ったほどで、日常の動作を眺めているだけでじゅうぶんに映画的。小学生ぐらいの男子が、段ボールや廃材を集めて秘密基地をつくって遊ぶのを眺めるような、タイトな場所に機能が溢れた廃船をきびきび動きまわる。その上、水の上に浮かぶ船だから、岸へは水に潜って泳いでいく。少年は身の回りにあるものを活用して生計を立てることに精通しており、魚を釣って干物を作ったり、貝殻を集めて細工を作ったりし、お金に換えにいく。
 
 
智恵に溢れた少年の生活は、たった一人で国境地帯に辿り着き、生き延びるために身に着けざるを得なかった、哀しみに裏打ちされた逞しさの上に成立しており、家族によって生活が保障され、友人たちと遊びまわる、そんな少年らしさを無邪気に発揮しながら生きること。を、奪ったものの存在が次第に透けてのしかかってくる。
 
 
Q&Aの採録を読むと、キャストは素人で、小さなカメラをこっそり回しながら撮っていたから、すべて撮り終わった後、少年は監督に「いつから撮影が始まるの?」と尋ねたとのこと。ああ、イラン映画界、新しい才能が次から次へと出現するのだなぁ・・。なんと映画の活気のある国なのだろう!溜息。