角川シネマ有楽町で。公開日、手帳に書いてたのに終了間際に滑り込み。空いてた。
ベネット・ミラー監督、実在の人物の人生を映画化することが多い人だけど、過去の「カポーティ」も、「マネー・ボール」も好きだった。物語の細かいところはもう忘れてしまってるのだけど、フィリップ・シーモア・ホフマン演じるカポーティの「君たちのコートは安物だけど、僕のコートは一流品だ」というセリフ・・うろ覚えなのできっと正確じゃないけど、あのセリフ、物語自体にはたいして必要じゃないけど、カポーティのキャラクターを肉付けするのにとても必要なセリフだった気がして、記憶に残ってる。「マネー・ボール」は、ブラッド・ピットの電話のかけ方など。私は人と話してる時も、相手が何を話してるかよりも、眉の形や、着ている衣服の繊維のたわみなど、そういうのばかり見る癖があるので、現実でも映画でも、記憶に残るのはそういうことばかり。
「フォックスキャッチャー」はアメリカで何番目かの富豪、財閥の家系に生まれ、勤労など経験してないであろう中年男が、レスリング金メダリストを射殺した現実にあった事件を映画化したもの。3人の俳優、みんな素晴らしくて、マーク・ラファロも素敵だったのだけど、特殊メイク(つけ鼻など?)でスティーブ・カレルのそっくりさんみたいなスティーブ・カレルと、チャニング・テイタムはもっと良かった。
まずスティーブ・カレル。「ラブ・アゲイン」でライアン・ゴズリングに説教されてたあのお父さんと同一人物とは思えないシリアスな怪演。スティーブ・カレルにこの役ができるのではないか。と、思いついた人の勝利だし、期待に応えたスティーブ・カレルも見事。後半、静かに壊れていくに従って、肌のきめが荒れていく・・・百貨店の化粧品カウンターで、お肌の調子をピッと光をあてる機械で見てもらったとき、菱形のようなきめが、菱形のシェイプも整っており、ふっくらしていれば良し、そうれなければ乱れてる。って言われる、ドキドキの機械。あれで後半のスティーブ・カレルの肌をピッとやったらば、きっと荒れてる。そして高価な化粧水やクリームを薦められるであろう、そんな肌。あの肌まで特殊メイク?だとしたらなんて細かな仕事なのだろう。特殊メイクでないとしたら、スティーブ・カレル、どうやって肌まで役作りしたんだろう・・・ストレス?食生活?運動?そのあたりを調節して・・?
そしてチャニング・テイタム。「マジック・マイク」では従順な可愛い大型犬って感じだったのが、この映画では獰猛で情緒不安定な大型犬って感じで、どっちにしても犬。金メダリストのはずなのに兄の功績の陰に隠れ、鬱屈した感情を抱える弟。冒頭、ジムから家に戻り、インスタントラーメンみたいなのに水をかけてレンジでチンする場面があったけど、それってどういう食べ物・・?とりあえず経済的に困窮していることは伝わり、スティーブ・カレルとの出会いで彼が輝いていく展開に繋がっている。マッチョな身体が特徴の俳優だけど、マッチョなだけの男ではないあたりが素晴らしい。この人がいるおかげで、アメリカ映画のバリエーションは多彩さを維持できるのではないか。
フォックスキャッチャー、富豪が抱えるレスリングチームの名前でもあり、もちろん「狐狩り」のことでもある。猟犬を追い立てて、狐を噛み殺させる。人間はただ猟犬を追い立てるだけで手を汚さない、貴族の戯れ。観終わって振り返ると、なんてこの映画にふさわしい名前だったのだろう。